第六十三回角川俳句賞、角川短歌賞贈呈式|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年2月2日

第六十三回角川俳句賞、角川短歌賞贈呈式

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受賞者の睦月氏(中央左)と月野氏を囲んで
一月二十三日、東京・丸の内のパレスホテル東京にて、第六十三回角川俳句賞、角川短歌賞の贈呈式が行われた。

同時開催の第十二回角川全国俳句大賞贈呈式では、自由題部門大賞を〈黒潮の藍ひきよせて上布織る〉で受賞した若林正人氏ほか六名が、第九回角川全国短歌大賞では、自由題部門大賞を〈未来という言葉は使わなくなって将来と言うクールな声で〉で受賞した松田わこ氏ほか五名が表彰された。

角川俳句賞は、月野ぽぽな「人のかたち」(五十句)に決まった。仁平勝、正木ゆう子、小澤實、岸本尚毅の選考委員を代表して、仁平氏が講評を述べた。

「三時間を超える討論になりました。月野さんの「人のかたち」は、いかにも俳句らしい場面を作っていないところが魅力でした。

例えば〈水かけて家壊すなり橡の花〉という句。家を解体する時、粉塵が飛ばないように水をかけるわけですが、作者はそうした実用的な場面から、別の詩的な奥行きを手に入れています。それが句になると儀式のようであり、家に対する思いやりにも感じる。季語の「橡の花」も自然です。〈息止めて聖夜の肉に刃を入れる〉も、実際の光景が俳句というフィクションの中で、聖夜の厳粛さと響き合う。「聖夜の肉」の「の」の使い方も効いています。同じ「の」の使い方では、〈まばたきで仕上げる春の付け睫毛〉。「まばたきで仕上げる」という言葉が、芸だと思います。それを春の季節感と結びつけて、「春の付け睫毛」というフィクションに仕立てた。こういう作り方を技術的に批評すると「あざとい」ということになりかねないのですが、なぜか月野さんの句は、そう感じさせないんです。正木さんは「書きすぎず、ウイットも程よく、天性のものがある」と、岸本さんは「感情の質が無垢で初々しい」と評しました。

他に最終選考に残ったのは、谷口智行「秋津島」、兼城雄「若夏」です。谷口さんの作品は、例えば〈木の股と根之国通じゐて涼し〉〈いかづちもをろちも霊(ち)なり秋津島〉〈神ときに草をよそほふ冬の月〉という、熊野という土地を神々の世界につなげるというテーマがあります。レトリカルな作品です。小澤さんは「世界を手づかみにしていく俳句精神とは違う」と認めませんでした。

最後まで競ったのは兼城さんの作品でした。小澤さんは〈拝所(うがんじゆ)の巌つめたし黒揚羽〉〈基地出口即酒場町旱月〉〈死者生者汗まみれなりデモの列〉などを挙げて、「沖縄の過去と現在に向き合っている、メッセージ性がある」と高く評価しました。またそれとは別に〈うしろから父の来てゐる泉かな〉〈風鈴やいつもひとりの近所の子〉など魅力的な作品があり、岸本さんは「形の美しさとテーマに対する掘り下げとが両立している」と。

作品の質が全く違うので、どちらを受賞作にするか議論が白熱しましたが、最終的には四人が合意したわけです。「人のかたち」には、小澤さんの「言葉が新たな向こう岸までいっていない、ぼんやりとした内面にいる」という評価もありました。正木さんが、前々回受賞した遠藤由樹子さんを例にあげ、「耳をすまさないと聴こえないような俳句」と言ったのが印象的でした。月野さんの作品にもそういう良さがあると思います」

角川短歌賞は、睦月都「十七月の娘たち」(五十首)に決まった。伊藤一彦、永田和宏、小池光、東直子の選考委員を代表して、小池氏が選評を述べた。

「五十首で一連を作るには、テーマが必要ですが、主題がともすれば話題になって、話の面白さ、珍しさで作ってしまうという、最近の傾向があるように思います。睦月さんの一連は、少し難解で「娘」の主題が分かりにくいところはありますが、一首一首の歌の定型詩としての輪郭と、緊張感、美しさが応募者の中で際立って、印象深く感じられました。文語、定型、旧仮名づかいという三種の神器を抑え、句またがりや句われ、破調もまずない。オーソドックスでクラシカルな一連の中に、何かしら現代的な感性の切れ味がある。

例えば〈イーピゲネイアの喉の白きを思はする花瓶ありたり古りし生家に〉という歌があります。「イーピゲネイア」は、ギリシャ神話に登場する王女です。生家に花瓶があった、それだけのことを歌っているのですが、韻律的な盛り上がりが美しく、ドラマチックな歌になっています。〈そこらぢゆう木香薔薇が咲いてゐる 夜なのに子どもの声がしてゐる〉。何かミステリアスなことが始まる予感がする。「木香薔薇」という植物の選択もうまくいっています。〈円周率がピザをきれいに切り分けて初夏ふかぶかと暮るる樫の木〉は、ピザを切る時のことを思いだすと、丸い食べ物の真中からカットを入れて、二分の一にして、四分の一にして、八分の一にしていく過程は、実際に円周率がピザを切り分けることはないのですが、そのような感じがします。最後に「樫の木」を出すことで、再び円系のイメージに回収されるところも、上手です。

短歌は、美しくなければいけない。さもすれば忘れがちなことを、気づかせてくれるような作品でした」と話した。

その後、受賞者の挨拶があり、場をうつして賑やかな新年会となった。新年会の会場では、角川源義生誕一〇〇年を記念した映像が流れ、また昨年行われた「角川源義展」の一部が展示された。
2018年2月2日 新聞掲載(第3225号)
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