日本とフランスのあいだで 思想の軌跡 書評|棚沢 直子(御茶の水書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年2月3日 / 新聞掲載日:2018年2月2日(第3225号)

フランスの女性運動と向き合う 
平等と差異の根源に立ち返って

日本とフランスのあいだで 思想の軌跡
著 者:棚沢 直子
出版社:御茶の水書房
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本書はフランス学研究者・棚沢直子が自選した論文・エッセイ・シンポジウムの報告等を収録し、著者の思想の形成の跡をたどるものである。本文444ページに索引、注がついた、中身の濃い書籍であり、フランスの女性・ジェンダー研究のあり方を知る上で重要な参考書となるが、学術界で先覚的な役割を果たしてきた日本人女性の個人史として読んでも非常に興味深いものがある。

なぜ日本とフランスとの比較が必要なのか。著者は、近代日本が社会経済システムを育成するときに、イギリスやドイツに比べてフランスをそれほど取り入れなかったから、西欧のうちでもフランスが現代まで日本との違いを鮮明にする、と言う。本当にそうだろうか。ボアソナードを例に出すまでもなく、少なくとも刑法や民法など近代国家の土台となった基本法にフランスの影響は英独に比べて小さかったとは言えない。しかし著者が述べていることで重要だと思われるのは、フランソワーズ・コランの言うpluriversalisme(複数普遍主義)、すなわち同じ西欧であってもその普遍主義の中身は複数あることを認めることであると思われる。

本書を、アカデミックな日仏の比較文化・思想論と思って手にする読者がいるとしたら、まず冒頭の「母とは何か――個人的な体験から」という第I章によってカルチャー・ショックを受けるだろう。ここでは、「高年齢出産」をめぐって、羊水検査、妊娠中絶、再度の妊娠と出産に関する著者の体験が「やぶれかぶれの素直さ」をもって語られる。

ジェンダー、フェミニズムに関心を持つ読者にとって、圧巻なのは第Ⅵ章「私の出逢ったフランスの女たち」である。著者はフランス女性解放運動MLFの資料を集める過程で、1970―80年代を席捲した女性の思想家・実践家たちと出会い、彼女たちの著作を日本に紹介する役割を果たしてきた。今や歴史的な存在となったこれらの女性たちと、著者は実際に会い、関係を築いた。ここではその体験が、個人的な回想に終わることなく、彼女たちの学説史的な位置づけを示し、フランスの女性思想史の鳥瞰図となっている。「男女平等を思想的に極限まで押しすすめた」シモーヌ・ド・ボーヴォワール。「性的差異への確信からボーヴォワールの対極に行きつ」いたリュス・イリガライ。「売春婦闘争」の首謀者バルバラ。ニーチェ生誕150年の日に自ら命を絶ったサラ・コフマン。「ウーマン・リブの大物」アントワネット・フークなど。これらの女性たちの著作や行動を通じて、米国同様、「平等派」と「差異派」が激しく対立するフランス思想界の様子がよく理解できるとともに、日本ではなぜこのような理詰めの論争が起こらないのだろうかと考えさせられた。著者が指摘するように、日本の思想界が、外来語をちりばめた外来思想の輸入・解説・応用どまりであって背後にある西欧思想を突き詰めて考えていないことと関係するだろう。

日本ではようやく公職選挙におけるジェンダー・クォータ(割り当て)制度が現実のものとして議論され始めたが、フランスでは2000年にパリテ(男女同数議会)法が実現し、オランド内閣は男女同数内閣を実践した。世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダーギャップ指数も、日本は毎年順位を下げているが(2017年は114位)、フランスは上昇を続けている(2017年は11位、G7のトップ)。本書はジェンダーギャップ解消のためのノウハウ本ではないが、平等と差異の根源に立ち返り、差別の解消を考える際のthe food for thoughtとなるだろう。
この記事の中でご紹介した本
日本とフランスのあいだで 思想の軌跡/御茶の水書房
日本とフランスのあいだで 思想の軌跡
著 者:棚沢 直子
出版社:御茶の水書房
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