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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年9月9日 / 新聞掲載日:2016年9月9日(第3156号)

書評
大学生が見つめた奄美 40年間のフィールドワークの集大成


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亜熱帯の希少な野生動植物が生息し、世界自然遺産を目指す奄美大島。近年、成田―奄美間に格安航空LCCが就航し、東京からのアクセスは抜群によくなった。気軽に旅することが可能になった奄美は、ネット上で「東洋のガラパゴス」などと呼ばれ、人気の旅行先となっている。本書は、東京から奄美まで行くのに丸2日も要した1970年代に始まった、跡見学園女子大学による民俗調査実習の、約40年にも及ぶフィールドワークの集大成である。

当時の奄美は、戦後8年間の米軍統治時代を経て、晴れて日本復帰を果たし、奄美群島振興開発特別措置法によりインフラ整備が急速に進んでいた時代だ。道路やトンネル工事が進み、「本土並み」を目指した政策で生活環境が激変。方言の使用は禁止され、食生活や住環境も変化した。他方、集落ではまだサトウキビや稲作などの農作業も盛んで、待網漁など昔ながらの漁法も行われていた。そんなときに奄美を訪れた若い女子大学生たちは、Tシャツにパンタロンで蒸し暑い公民館に住み込み、特定の集落の全戸聞き取り調査を行った。いまとなっては消え、衰退しつつあるそれらの伝統的な暮らしの得難い記録である。

『奄美の人・くらし・文化』とのタイトルにあるように、本書は奄美の日常にある、さりげない道具や植物、唄などに着目し、学生たちが参与観察を行っている。例えば「テル」と呼ばれる網かごに注目した学生は、その持ち方の種類を記述し、ソテツの葉に着目した学生は、子どもがそれで虫かごを作る様子を記述している。従来の奄美民俗研究のテーマであった伝統芸能や豊作祈願の伝統行事の記録には薄い、島民たちの日常生活を切り取った、学生ならではの柔らかな視点である。

また、事例報告の間に挿入されているコラムの視点も示唆に富んでいる。例えば奄美島出身の30代の私は、洗骨など一度も見たことはない。本書では各集落での洗骨のやり方や、そこに込められた住民の願いや意味が描きだされている。また、奄美の妖怪「ケンムン」について詳しい住民へのインタビューを詳細に記したコラムなどは非常に生き生きとしてユーモラスだ。

特筆に値するのは、このフィールドワークにささげられた歳月だ。多くの大学生が卒業論文執筆後、調査地とは縁遠い暮らしをしていく中で、跡見学園女子大学の元大学生たちは何度も奄美を訪ね、中には民家を借りて一年暮らした者までいる。そのような38年間という歳月が、急速に都市化が進んでいく奄美の暮らしの変貌期と成熟期を切り取った。「調査者/被調査者」の壁を越え、島民との深い交流が芽生えていく様子が伝わってくる。学生たちの発見と興奮、そして成長が刻まれた本書は、奄美の暮らしと文化への誘いの書として大きな役割を果たしてくれるに違いない。
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