「#おまじない試読会」  西加奈子『おまじない』(筑摩書房) 試読会|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年2月11日 / 新聞掲載日:2018年2月9日(第3226号)

「#おまじない試読会」 
西加奈子『おまじない』(筑摩書房) 試読会

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おまじない(西 加奈子)筑摩書房
おまじない
西 加奈子
筑摩書房
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直木賞作家・西加奈子さんが新境地を切り拓いた待望の最新短編集『おまじない』(筑摩書房)が三月二日に刊行される。これに先駆けて、神楽坂・日本出版クラブ会館で一月二三日、『おまじない』試読会が開催された。

西加奈子さんの二年ぶりの新刊にして十年ぶりの短編集『おまじない』は、書き下ろしを含む八編の作品集。少女、ファッションモデル、キャバ嬢、レズビアン、妊婦などさまざまな悩みと生きづらさを抱えた年齢も職業もさまざまな女性が主人公として登場する。悩み傷つきながら他者とのかかわりの中で生きていく彼女たち(それは読者である私たち自身の姿でもあるのだが)のストーリーに、本作で西さんは魔法をかけた。彼女たちに救いをもたらす魔法の言葉=おまじないをくれるのは、焼却炉のおじさんや売れない芸人、イチゴ農園の浮ちゃんやトラックの運転手といった、王子様とはかけはなれたイメージのおじさんたち。
試読会では担当編集者による作品紹介、著者の西加奈子さんによるスピーチと朗読、『ダ・ヴィンチ』前編集長の横里隆さんとの対談などが行われ、近年長編作家としての実力を遺憾なく発揮している西さんが、いまなぜ短編を書こうと思ったのか。きっかけや物語に込められた想い、本作の読みどころなど、あますところなく魅力が語られた。


筑摩書房代表取締役社長山野浩一氏の挨拶、編集担当の山本充氏による作品紹介に続き、西加奈子さんが登場、スピーチが行われた。
西 加奈子さん
「長編が大好きで、ずっと長編を書いてきて、長編どっぷりの脳みそになっていた三八歳のときに直木賞を受賞してものすごく嬉しかったが、直木賞はゴールではなく、もっと息の長い作家で歳をとっても力のある作品を書き続けたい、ずっと作家でありたいと思っている。そうしたときに尊敬する作家の角田光代さんに話を聞いたら、三〇代は短編一〇〇〇本ノックもしていたと聞き、私はもっと努力しないといけないなと思い始めて書いたのがこの『おまじない』。本作では自分に縛りを作ろうと、女の子が主人公であること、何かひと言の「おまじない」で世界が変わる話にすること、言葉をくれるのがいわゆるおじさんであること、三〇枚で書くこと、と決めた。それが思いがけず縛りがきつくて絞り出す感じで書いたが、その絞り出す感覚が近年ないものだった。長編は恰好いい言い方をすると、物語の方から動いてくれる瞬間が何回もあって、物語に引っ張ってもらうようなやり方をしてきたが、枯れ果てた中で絞り出す作業がすごく新鮮でその中から出て来た自分の言葉も新鮮だった。創作ではあるが実際書いていて私自身が救われてきた言葉で、すごくチャレンジした作品。絞り出した生々しさがあって他の作品よりも読んでいただくのが恥ずかしいところがあるが大切に読んでいただけたら本当に本当に嬉しい」と語った。続いて、短編「燃やす」の朗読が行われ、横里隆さん(『ダ・ヴィンチ』前編集長、株式会社上ノ空/uwanosora代表取締役)が聞き手となって対談がスタートした(一部抜粋)。

【対談=西×横里】

■女の子とおじさん
 
横里 隆さん
横里 
 お世辞抜きですごくいい作品集。密度が濃くて凝縮されていて、『サラバ』『i(アイ)』という凄まじい長編を書かれて階段を否応無くのぼってしまい、その階段を下りれなくなってしまった、それによって短編のレイヤーも上がったということだと思う。今回はなぜおじさんが言葉をくれるということにしたのか。またそのおじさんたちがアウトロー、アウトサイダー的なちょっと外れている人が多い。
西 
 女の子の辛さや生きづらさを応援したい気持ちがあった。でも女の子たちが私たちだけで頑張ろうとなるのはちょっと違う。そこで女の子に忌み嫌われるガチなおじさんが女の子を助けてくれることがあってもいいんじゃないかと。そういうおじさんが私は好きで、書きたいというのが第一にあって、社会の真ん中でカッコよく頑張っている人たちではなく、出世とかそういうものではないことで救われるものを書きたいと思っていた。
横里 
 八人の主人公たちはそれぞれ何か目に見えないものに縛られていて本人たちもそれに無自覚だったりする。女の子たちは社会というより世界に向き合っていて、でもそれが得体が知れない。そこに半ば社会からスピンアウトしたようなおじさんたちが刺さるような言葉をくれる。
西 
 何が苦しいって意識的にせよ無意識にせよ、社会とか世界のこうであらねばならないという尺度が苦しい。でも社会のど真ん中にいる人から救いの言葉をもらっても、その尺度からは出ることはできない。価値観をぶち壊してくれる人、風穴が必要だったのだと思う。
 ■「あねご」

横里 
 個人的には「あねご」にものすごくやられた。その子の呪縛を解いてくれるのが売れない芸人さんで、その芸人さんとの絡みの中でその女の子がはっきりと自覚する瞬間のカタルシスが堪らなくて何回読んでも泣けてきた。いろんなタイプの女の子の中で自分に近いなと思うのは?
西 
 どの女の子もある意味近くて、短編は長編と違って自分自身のことが出てしまうことに気づいた。「あねご」は、プライベートで腹が立った場面があって、女の子が頑張っているのをなぜ大人が応援しないんだという想いから入った。
 ■「オーロラ」「マタニティ」「ドブロブニク」

西 
 「オーロラ」はこの中で一番不思議な短編。アラスカ旅行の最後の一日にアラスカ大学のロビーで書いた。これは私が言いたかったことなのかどうかわからない、アラスカが書かせてくれたというかアラスカがすごく寂しかった。アメリカの政治からこぼれ落ちたような人たちがいっぱいいて、その衝撃とアラスカの秋の何にもない感じがこういう作品になった。
横里 
 「オーロラ」のおじさんのことをその女の子は、自分のことも忘れて日本のことも知らずにそのままでいてほしいと祈るように思う、その感じはイチゴ農園のおじさんに対しても同じで、変わらないでいてくれることの強さや世の中の価値観とまったく関係なくいてくれることの安心感もいくつかの作品のテーマとして繋がっている。「マタニティ」は西さんの妊娠時期と書いたタイミングが近いと思うが、シンクロして書かれたのか。
西 
 これは清原和博さんが覚せい剤で逮捕されたときの一連の清原叩きが辛くて、なんで弱いことがこんなに叩かれるんだろうと。トランプの強いアメリカという言い方もそうだが強いことは正義なのだろうかと疑問に思った。弱い人間、弱い国が生きていけるのが成熟した社会なのではないかとずっと思っていて、それを書きたいと思い、弱い自分でいいんだということに救われるって、どんな人だろうと逆算していった。私の妊娠時期と重なったこともあって、ストレスをかけるなと言われることがストレスで(笑)、これが清原さんの気持ちと似てるなと思って出来た作品。
横里 
 妊娠の不安で自分がしっかり立っていられない。でもその弱い元野球選手を抱きしめることで自分もそこからしっかり立っていけるような、ラストの盛り上がりがすごかった。西さんはありとあらゆる弱い人たちを抱きしめるんだと。「ドブロブニク」は女性の境遇が辛くて、出版の世界もそうだが表現の世界で働いていると頑張れば頑張るほど逆効果になっていることがある。これも刺さる作品だった。
西 
 「ドブロブニク」は原点に帰る作品。フィンランドの冬は本当に長くて、二ヵ月しかない夏に命懸けで飲んでいるような姿を見て感動した。私たちは一年中当たり前にビールを飲むが、ここではこんなに尊い時間なんだと思ったときにリセットされる感じがした。言葉そのものの原点に立ち返り、その言葉がどうやって出来たのか、言葉だけの美しさをもう一回感じたいと思って書いたのだと思う。
 ■「ドラゴン・スープレックス」 

横里 
 最後の書き下ろしの「ドラゴン・スープレックス」は西さんの技術のすべてが詰まっためちゃくちゃ上手な短編で西さんは本当に高いところに上がったと思った。自分や誰かを守ろうという気持ちで言った「おまじない」のような言葉が逆にいろんなものを縛ってしまう。でも最後の「ドラゴン・スープレックス」では、その「おまじない」というものをまたもう一段上から俯瞰した作品だった。
西 加奈子さん
西 
 「ドラゴン・スープレックス」は、本作のそれまでの短編を良い意味でひっくり返すようなものにしようという構想があった。読む人、自分も含めて何からも自由であって欲しい。それは『サラバ』もそうで、何かから自由であるための宗教、信仰のはずなのに、結果その人を縛るのが悲しくて、とにかく自由であって欲しい。
横里 
 『サラバ』では、信じるものを誰かに決めさせてはいけない、あなたがそれを決めるんだというメッセージがあったが、本作は『サラバ』に至る流れを捉えながら、『しずく』に代表される短編の要素と『サラバ』や『i(アイ)』によって西さんの作品世界が広がって高いレベルでの物語世界を創るようになったその両方の世界がミックスされてこの短編集になっている。それぞれの“魔法の言葉”を探しながら読むのも良いし、ラストで世界のレイヤーが一段上がるところも楽しんでもらえると思う。西さんがこの中で一番気に入っているおじさんは?
 ■「いちご」「孫係」

西 
 「いちご」の浮ちゃんと「孫係」のおじいさんには結構助けてもらえた。
横里 
 「孫係」は小学六年生の孫とおじいさんの話で、女の子とおじいさんは普段一緒に暮らしていないからしっくりいかない。それをお互いに吐露し合って、おじいさんがそれぞれの役割を“係”と考えようと言う。おじいさんは爺係、女の子は孫係。ここにも、もう一段上があって女の子が「でもそれって嘘じゃないの」と。その僕たちがよく苦しむ善と偽善という問いかけに対して、おじいさんは、ベースに思いやりがあればいいんだと。自分が得をしようとか相手を貶めようと思って嘘をつくのは良くないが根底にあるのが思いやりであればいいんだよというのは、西さんワールドに通呈している。
西 
 もはやそれを基準にしてしか生きられないというか、生きるのに正解はない。結果傷つけるかもしれないけれどそこに愛や思いやりがあったらいいと考えないと生きていけないという思いがある。 

聞き手を務めた横里さんは最後に、(読後は)「僕たちには西さんがいる」ということをしみじみ感じられるのではないか、と締めくくり、参加者からの質疑応答へと移行した。 (おわり)

☆西加奈子「おまじない」新作絵画展

6月10日(日)~6月24日(日)千代田区・AIKOWADAGALLERY
http://aikowadagallery.com/
この記事の中でご紹介した本
おまじない/筑摩書房
おまじない
著 者:西 加奈子
出版社:筑摩書房
以下のオンライン書店でご購入できます
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