柴田元幸氏インタビュー 小説の良さを伝える翻訳 『ハックルベリー・フィンの冒けん』(研究社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年2月9日

柴田元幸氏インタビュー
小説の良さを伝える翻訳
『ハックルベリー・フィンの冒けん』(研究社)刊行を機に

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第5回
いままででいちばん反響が気になる翻訳

――話は変わりますが、『ハックルベリー・フィンの冒けん』の刊行とほぼ同時期に、柴田さんの編訳でレアード・ハントの『英文創作教室』が刊行されましたね。これも面白い本で、アメリカ人と日本人の若い人たちがいくつかのテーマに沿って創作した短篇を、レアード・ハントが講評し、それをもとに作者が手を入れ、でき上がった作品に対してさらに講評がなされるというもので、それらがすべて英語と日本語の両方で収録されています。ここにはたんに創作の方法を学ぶだけではなく、翻訳の問題も実は含まれているのではないでしょうか。
柴田 
 あれは日本人の創作も、僕の前書きもすべてまず英語で書いて、それを各自が自分で日本語に訳すという形式をとっています。だから作り方としては、日本で出すから日本語も付けたぐらいの感じです。とはいっても、この英語がこういう日本語になるんだということを具体的に見てもらえる機会ってあんまりないと思うし、しかもそれが文章の書き方に直接結びついたかたちで見てもらえるのは結構プラスかなと思っています。

――あれはどちらかの言語だけにしてしまったら、かえって価値と魅力が半減してしまいそうですね。
柴田 
 そうなんです。なんと言っても「英文創作教室」なんだから日本語訳だけ載っていて原文が載っていないのでは意味が無いし、でも英語の原文だけだったら読める人は激減する。英語と日本語の両方があることで、一方を読んでもちょっとピンとこなければもう一方を見てもらえばいい。

――単なる対訳本ではないところにも面白さがあります。
柴田 
 他にないですよね。それにレアードは、人の文章の良いところを的確に捉えて、白々しくなく褒めるのがすごくうまい。その意味では、創作の書き方の読本なんだけど読み方の教室でもあるんですよ。

――レアード・ハントと言えばこれもほぼ同時期に、やはり柴田さんの訳で『ネバーホーム』も刊行されました。この小説は『ハック・フィン』と時代も近い南北戦争期が舞台です。
柴田 
 こちらも一人称で、一人称の語りの強さというところはトウェインと共通しているんですね。さっきヘミングウェイとフォークナーに引き継がれていると言いましたけど、現代の語りでも何が書いてあるかというより、どう語っているかがまず魅力である語り手がいて、それがレアード・ハントだったりレベッカ・ブラウンだったりするわけです。

――大きく言えばそのような作家たちがマーク・トウェイン、あるいは『ハック・フィン』の子孫たちだと。
柴田 
 そうですね。新潮文庫の「村上柴田翻訳堂」のシリーズで毎回巻末で村上春樹さんと対談しているのですが、その中のトマス・ハーディの短篇集での対談で、イギリスの小説ってどこが良いんですかねという話になって、村上さんは描写が良いんだとおっしゃるんです。じゃあアメリカの小説はと考えたら、それは声だろうとあらためて思いました。描写で勝負するイギリス小説と、声で勝負するアメリカ小説というのは一般論としてある程度言えると思います。

――やはりアメリカは「語り」の文学なんですか。
柴田 
 語り、うたう文学ですね。小説なんだけど詩に近い。あと、エドガー・アラン・ポーあたりはすごく芝居がかった「騙り」ですね。そのあとに出てきたマーク・トウェインでも「騙り」は大事。怪しげな語り手がいて、嘘だか本当だかわからないことを言う。イギリスのトロロープだとかディケンズだとか、あるいはフランスのモーパッサンなんかでも、この語り手は嘘を言っているんじゃないか、という意識を読者はあんまり持たないと思うんです。

――『ハックルベリー・フィンの冒けん』は、もうすでに重版がかかったとのことですが、この翻訳で初めて『ハック・フィン』を読む人はもちろん、他の翻訳を読んできた人たちの反応が楽しみですね。
柴田 
 すごく楽しみです。いままででいちばん反響が気になる翻訳です。とにかく否定的でもいいから話題になってほしい(笑)。この訳は嫌だという声も出てきていいので、とにかく話題になってほしい。翻訳とはどういうことなのかと考えるきっかけとなり、格好の叩き台になる本だとも思っています。
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この記事の中でご紹介した本
ハックルベリー・フィンの冒けん/研究社
ハックルベリー・フィンの冒けん
著 者:マーク・トウェイン
翻訳者:柴田 元幸
出版社:研究社
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年2月9日 新聞掲載(第3226号)
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