娼年 書評|石田 衣良(集英社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2018年2月17日

石田 衣良著 『娼 年』
大正大学 外山 紘太朗

娼年
著 者:石田 衣良
出版社:集英社
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娼年(石田 衣良)集英社
娼年
石田 衣良
集英社
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この物語の大筋は簡単だ。主人公のリョウが娼夫として秘密のクラブで働く一夏の物語、そんな感じである。実際はもっと重くセクシャルだがそれを全く感じさせない、サラサラとしながらも心に何かを残していく、とても綺麗な恋愛譚だ。

リョウは大学生でありながら、他の学生と同じようにきちんと単位を取って就活に勤しむのを嫌っている。そういうのがどうにも肌に合わないらしい。倦怠感に包まれながら生きる彼は娼夫という仕事に出会う。お客である女性たちと出会い、それぞれが持つ物語やスタイルとそれに隠された欲望の複雑さに惹かれ、その謎を追うように次々に仕事をこなしていく。

ライバルで懇意の同僚、アズマは痛みだけを快感とする生粋のマゾヒストで、そんな彼曰く、ほかの娼夫たちもどこかいびつなところがあるのだという。そこで、アズマがリョウの魅力を「普通」なところだと答え、困惑するシーンが印象的だ。他人と違うところ、つまり特徴が別段見当たらない「普通」な自分がこんなに人気が出るのかと不思議に思うのだ。

そもそも「普通」とはどういうことなのか? 素朴ながらなかなか答えが出せないこの疑問に思いを巡らせ始めると、これがなかなか興味深い。普通とはなんぞやと問われた時、瞬時に答えられる人はきっと少ないだろう。辞書で引いてみると、「特に変わったところのない、ありふれたものであること」だとか「特別ではない、一般的なこと」だと説明されている。なるほど掴み所がない訳だ。何かと比べないと何が普通なのか定められないものらしい。近年は、「普通」という概念がだいぶ拡張されてきたように感じる。比べるものが変化していけば何が普通なのかも変わっていくのだ。

この作品で重要な「性」について取り上げて考えると、「普通」の変化についてわかりやすいだろう。LGBTsについての話題が真っ先に頭に浮かんだ。性差についての理解はつい最近広がり始めたところであるが、少し前まで性的少数者の肩身は今よりもずっと狭かったはずだ。異性のことを好きになるのが「普通」であり、そこから外れているために「特殊」だと決めつけられていた。人が人を好きになるという根本は何も違わないのに。そんな具合で、普通というのは移ろいやすくもろいものなのだ。

リョウをこの仕事に導いた女性は、「人間は探しているものしか見つけない」と言った。私の心に残った〈「普通」の不思議〉は、この本を通して見つけた新たな視点なのだ。『娼年』は、きっと心に何か輝くものを残していくだろう。
この記事の中でご紹介した本
娼年/集英社
娼年
著 者:石田 衣良
出版社:集英社
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年2月16日 新聞掲載(第3227号)
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