明智小五郎回顧談 書評|平山 雄一(ホーム社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年2月17日 / 新聞掲載日:2018年2月16日(第3227号)

明智小五郎回顧談 書評
謎多き探偵の人生を再構築 
現実と物語世界が意外な形でリンクする

明智小五郎回顧談
著 者:平山 雄一
出版社:ホーム社
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日本を代表する名探偵といえば、真っ先に江戸川乱歩が生み出した明智小五郎の名が挙がるのではないだろうか。だがこれだけ有名なキャラクターにもかかわらず、明智には謎が多い。

「D坂の殺人事件」に初登場した明智は、「いつも木綿の着物に、よれよれの兵児帯」を締めている貧乏書生だったが、二度目の洋行から帰った『蜘蛛男』になると、「詰襟の白服に白靴の、日本人離れ」した颯爽とした紳士になっている。明智は「D坂の殺人事件」の数年後が舞台の「心理試験」では、「屡々困難な犯罪事件に関係」し、「一般の世間」に認められた探偵になっているが、どんな事件を解決したのか? 何度か大陸に渡っているが、その時は何をしていたのか? 変装が得意な怪人二十面相に匹敵する変装術を、どこで身に付けたのか? 何より、なぜホームズばりの推理力を持っていたのか?

オルツィ『隅の老人【完全版】』などを訳した翻訳家であり、『江戸川乱歩小説キーワード辞典』を著し、明智が解決した事件を編年体で並べた『明智小五郎の事件簿』(全一二巻)を編纂するなどした探偵小説研究家であり、さらに日本を代表するシャーロキアンにして、山中峯太郎や野村胡堂にも造詣が深い博覧強記の著者が、乱歩が書かなかった明智の空白を埋め、設定の矛盾を独自に解釈を施しながら、明智の人生を再構築したのが本書『明智小五郎回顧談』である。

物語は、警視庁を退職し『警視庁史』の編纂を手伝っている簑浦が、旧知の明智から話を聞くことで進んでいく。明智の父親は嘉納治五郎に柔術を学んだが、今は日本を離れ、明智は母に育てられていた。小五郎の名は、父親が尊敬する嘉納治五郎にあやかって付けたとされているのも面白い。子供の頃、元軍人で今は北辰一刀流の道場を営む母の兄・本郷義光の家をよく訪れていた明智は、陸軍幼年学校に通う従兄の義昭を兄のように慕っていた。

戦前のジュヴナイルが好きなら改めて指摘するまでもないが、本郷義昭は、山中峯太郎『日東の剣侠児』『亜細亜の曙』などで大活躍する陸軍将校である。後に一人前の探偵になった明智は、義昭と共に歴史の転換点になった実際の重大事件を捜査することになる。

このほかにも著者は、中学時代に浅草十二階近くを散策していた明智が、私娼窟で遊ぶ金が尽きた石川啄木に使いを頼まれ金田一京助の下宿を訪ね、そこで野村胡堂とも出会うなど、有名な人物を思わぬ場所で邂逅させていく(ちなみに啄木、金田一、胡堂は同じ盛岡中学校の出身で、仲もよかった)。これは実際に起きていたかもしれない可能性を積み上げながら、歴史上の人物のすれ違いを描いた山田風太郎の〈明治もの〉を彷彿させる。

ただ風太郎のすれ違いは実在の人物に限られたが、著者は実在の人物と小説のキャラクターを混在させ、史実とも、乱歩の記述とも矛盾なく共演させているので、より高度な技術を使ったといえる。現実と物語世界を意外な形でリンクさせる著者の遊び心は、戦前の探偵小説を含む近代文学が好きなら、思わずニヤリとしてしまうはずだ。

実在した人物ならまだしも、著者は何の説明もなく小説のキャラクターを登場させているので、ある程度の知識がないと本書は十分に楽しめないかもしれない。だた、どんでん返しが鮮やかな探偵小説、虚実を操りもう一つの日本近代史を紡ぐ伝奇小説、緊張関係が高まる大陸で明智が活劇を繰り広げる軍事冒険小説、乱歩の作品論など多様な読みを許容する構造になっているので、決して敷居は高くない。初心者でも作中の仕掛けが理解できるよう、著者には『明智小五郎回顧談キーワード事典』の執筆を期待したい。
この記事の中でご紹介した本
明智小五郎回顧談/ホーム社
明智小五郎回顧談
著 者:平山 雄一
出版社:ホーム社
以下のオンライン書店でご購入できます
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