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八重山暮らし
更新日:2018年2月27日 / 新聞掲載日:2018年2月23日(第3228号)

八重山暮らし(30)

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国の特別天然記念物カンムリワシ。石垣島と西表島に生息し繁殖する。
(撮影=大森一也)
春の荒れ


陽の光が眩しい昼下がりのことだった。西表島の高台にある牛小屋で年かさのおんなが独り呟いていた。
「あんなに島が近くなってるさぁ。砂浜も真っ白くして浮き出ているから、じきに雨が降るさーねぇ」

海を見晴るかす。その視線の先に新城島がある。西表島東部からは5キロ程の距離だ。なるほど、今日の新城は手を伸ばせば触れられるほどに島の姿形が、きりりと際立っている。しかし、天気予報では晴天が続くと告げているのだが…。

翌日、轟く雷鳴に寝入りばなをたたき起こされた。豪雨が集落を駆け巡る。吹き荒ぶ風に窓はわななく。屋根が割れんばかりの雨音に眠れない。高台での語りを反芻しながら、夜明け時分、ようやくまどろむ。

気象の変化の兆しを察知する。幼少より研ぎ澄まされた感覚は、年を重ねても失われない。海に生きる屈強な男ならいさ知らず、ごく普通のおばさんが、身に沁み付いた経験から自然界の機微を読み解く。すこぶる、かっこいい。

やがてニンガチカジマーイ(二月風廻り)が吹く。漁師でさへ予測が難しい。台風より恐れられる、旧暦二月の大風だ。海上は、たぎる湯鍋のように荒くなる。天高く舞うカンムリワシが、大木の枝で羽を休めた。微かな兆候も見過ごさぬ瞳は、冴え冴えとした威光を放つ。島の春が来る。
(やすもと・ちか=文筆業)
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