【横尾 忠則】絵描きって頼まれもしない絵を描くのが本来の生活なんだと思う。|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
更新日:2018年2月27日 / 新聞掲載日:2018年2月23日(第3228号)

絵描きって頼まれもしない絵を描くのが本来の生活なんだと思う。

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2018.2.12
 陽光を浴びてキラキラ光る波がヒタヒタと打ち寄せる岩場に亀が何匹もフワフワ浮遊している。岩場の一角に生け簀を作って亀を飼育したいと思うが、以前野坂昭如さんが、確かひき蛙だか亀を飼育していると聞いたことがあるので野坂さんに☎で聞いてみよう。

8時にアトリエに入ってタマの絵を仕上げる。その間旧山田邸で紅茶を飲みながら読書、そのあと喜多見不動堂を経て神明の森沿いにアトリエに戻る。勾配が激しいので息切れがする。途中、長男の知人だという人に声を掛けられるが何を話されても全然聞こえないので「あゝ、そーですか」を十遍くらい繰り返す。相手はあせりまくる。

一週間近く毎日のようにタマの絵を描いていると、タマとケンカしているみたくなる。まあ、絵は格闘技みたいなところがあるから倒すか倒れるかだ。

2018.2.13
 木版画制作の具体的な打合せに水谷社長と摺り師が来訪。話を聞いている内に自分でも彫ってみたくなってきたので、その機会を設定してもらうことになった。

午後、タマの絵6点目。すでに50点を超えたのでは?

2018.2.14
 次々と贈物が届くので、偶然のできごとかなと思っていたら今日はバレンタインデーだと知る。

郷里の播州織が内外に発信するオリジナルチェック柄のデザインの依頼。ハイハイと簡単に引き受けるには難題があり過ぎる。

どこの国の美術館からとはまだ公表できないが個展のオファーあり。2、3年後といえば83~84歳だ。相手はこちらの年齢のこと考慮に入れているのだろうか? 考えてなさそう。

夕方まで、タマの絵7点目完成させて朝日新聞の書評委員会へ。書くより読むのが一苦労。書評委員は読んだり書いたりを仕事にしている人達が大半だけれど、僕は見たり描いたりの仕事だから、時間がかかる。

2018.2.15
 植松国臣さんが死んでから10数年が経つが、目の前には生前の元気な姿の植松さんが大きな口を開けて笑っている。僕の郷里の町の駅前で偶然会った。なんでも競艇の選手としてデビューしたと言う。初めてスタートラインに並んだ時、マイクで紹介された時は「涙がでるほど嬉しかった」そうだ。「一度遊びに来てよ」と言うが、どこに住んでいるのか知らない、と言うと横に立っていた外国人の奥さんと思える人が紙切れに住所を書いて手渡してくれた。

イッセイ・ミヤケの宮前さんと21_21のスタッフら来訪。新しいコラボについてのミーティングをする。

長い間、アトリエに並んでいた新作を含む20点ばかりの作品が神戸の次回展「冥土の旅」展に出品するために、ごっそり搬出されてしまった。殺風景になったアトリエはなんだか荒らされた墓場のようだ。
アトリエにて保坂和志さん、磯﨑憲一郎さんと(撮影・岩本太一)

2018.2.16
 町田市立国際版画美術館の滝沢さんが新作版画7点を購入委員会にかけるためだと、作品を取りに来られる。

相変らずタマの絵と東京新聞の瀬戸内さんのエッセイの挿絵に肖像画(石牟礼道子さん)を描く。

そのあと保坂和志さん、磯﨑﨑憲一郎さんが来て「文藝」のアトリエ会議を行う。一見不真面目な座談を真面目にやることに無意味な意味がある。6時間たっぷり。

2018.2.17
 山田洋次さんと増田屋で落ち合う。去年の映画のベストテンの大半が洋画でその中に日本映画が2本、その2本共アニメだそーだ。アニメ的人間ぽさが現代の日本人像ということ? この間テレビを見ていたらステージでアニメの男の子がジャニーズそっくりに踊って歌っていたが、この人物はバーチャルで、映像であたかもステージで立体的にホログラム風に映し出されており、どーみても平面の映像に見えない。そんな出演者に観客は阿鼻叫喚になって泣きながら見ている。神がバーチャルの人間にとって変ったかのよーだ。

早朝からアトリエで昨日の続きを描く。別に依頼されてせかされている仕事ではないのに、絵を描いていると健康になっていくような気がする。絵描きって頼まれもしない絵を描くのが本来の生活なんだと思う。生活のための創作、ねばならないための仕事は老齢と共に次第に必要なくなっていく。

2018.2.18
 サハラ砂漠のような広大な所に立っていると突然前方から5機ばかりの戦闘機がやってきた。と突然、高射砲が火を噴いた。地下に埋まっていた高射砲だろうか、爆撃機はアッという間に順に砲火を浴びて空中で爆破してしまった。どこから出てきたのか多勢の旧日本兵が、歓声を上げながらバンザイをしている。

郷里の実家で妻の手の平に乗るほどの小さい小猫の足が折れているので、早く動物病院に連れていくように言う。

デパートの中の大きい書店で超豪華本のインドの写真集を買う。一、二点の写真が絵のイメージを〓きたてたからだ。一金三万円也。

アトリエで猫の絵を少し描いたあとスポーツマッサージへ。その店の階下がピカ・ビアなので、シャンプーをしてもらう。マッサージとシャンプーのコラボは心身の浄化になる。(よこお・ただのり=美術家)
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