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手塚治虫―深夜の独り言
更新日:2018年2月27日 / 新聞掲載日:2018年2月23日(第3228号)

手塚治虫―深夜の独り言 1回
中村一彦

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「赤塚クンは四コマまんがを書くべきだ」

手塚先生(以下先生と表記します)は私の担当している連載まんが「どろろ」(『少年サンデー』)を執筆する前に突如叫んだ。どういう事かと思って黙って聞いていると、
「朝日新聞が赤塚クンに四コマまんがを書いてほしいと頼んだら、断ったそうだ。断らずにチャレンジすべきだった。そうする事によって新しい分野を広げられるんだから。僕も朝日新聞で四コマまんがを連載した事がある。大変な不評で“手塚のまんがは汚れた。絵が不真面目だ、オチがなってない”などと言われたものだが、今になってみれば『鉄腕アトム』から脱皮する契機になり、青年コミックへの足掛りとなったと思っている」

いきなり先生の処世を長々と書いてしまったのにはワケがある。まだテレビがあまり普及していない頃、朝日新聞に週一回、先生は『あんてな一家』という四コマまんがを連載した。今でも覚えている作品は、好色っぽい親父がレビューの中継のラインダンスのアップを、目を細めて見ているのがヒトコマ目、次に画面が乱れて電器店の親父を呼ぶのがフタコマ目、サンコマ目は電器店の親父が修理するのに苦戦、ヨンコマ目は画像をようやく直した時はラインダンスは終わりニュースの時間。隣に居た女房がニヤニヤ笑い、亭主は憮然という作品である。

起承転結が鮮やかであればあるほど傑作といわれる四コマまんがにしては、切れ味に乏しくまんがも従来の手塚タッチではない。ここでいう手塚タッチとは『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』『リボンの騎士』などに代表される子供向けのリリシズムや豪華絢爛、自分が犠牲になっても他人を助けるいわゆる手塚ヒューマニズムなどを指す。しかし『あんてな一家』にはこれらの全ての要素が排斥され、表現されたのは頼りないタッチに、いじわるなストーリー。つまり従来の手塚ファンには不快な作品だと思われる。この連載は約一年で終わっている。

先生はきっと赤塚サンの四コマまんがを見てみたいと思ったのではないか。そうでなければ、あれだけ激しい口調で述べるわけがない。このエピソードを読んだ読者も赤塚サンの四コマまんがを、読んでみたいと思う人もいるのではないかな。

残念ながら、かなわぬ夢となってしまった。(なかむら・かずひこ=元・小学館編集者)
※かつて手塚番だった編集者のつぶやきを、全八回の連載でお届けします。
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