オリバー・ストーン オン プーチン 書評|オリバー・ストーン(文藝春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年2月24日

プーチンを見る目が変わる 
国際情勢を読み解く上で一石を投じる書

オリバー・ストーン オン プーチン
著 者:オリバー・ストーン
出版社:文藝春秋
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「この本を読むと、あのプーチンを好きになる」そんな評判を知人から聞いた。いやいや、そんなことはあるはずはない、などと思いながら読み進めると、好きになるかどうかは別として、プーチン大統領を見る目が変わっていく自分に気づく。本書は、映画『プラトーン』(1986年)で一躍名を馳せたオリバー・ストーン監督が、『スノーデン』(2016年)を撮り終えた直後の2015年7月2日から2017年2月10日までの間にロシアを四回訪問し、9日間にわたってプーチン大統領にインタビューした内容を書き起こしたものである。オリバー・ストーンは、2016年アメリカ大統領選挙への介入疑惑と米ロ関係をはじめ、クリミア半島の併合、ウクライナやシリア問題、チェチェン紛争などなど、プーチンに対してこんなことを聞くなんて無茶だと思うようなタブーにも、誠実な姿勢で次々と切り込んでいく。その受け答えを読み進めていくと、どんな質問に対しても、冷静に、声を荒らげるようなこともなく、理路整然と答えているプーチンの姿が目に浮かぶ。

目次で各章のタイトルを見るだけでもかなり刺激的な内容だとわかる。中でも、私自身が目から鱗が落ちる思いがしたのは、第二章「万能感に浸る国家は必ず間違う」だ。例えば、イラクの大量兵器所持に関する問題では、当時ロシアはイラクが大量兵器など所持していないという確固たる情報を持っていたし、アメリカがイラクに侵攻することはイラクの分裂ひいてはテロ組織を抑えていた社会構造が消滅してしまい、大問題につながる。だからこの地域での協力体制についてロシアからの提案をアメリカに送ったが、返事はなかった。結局、アメリカは「完全に正確ではない情報」にもとづいて、単独で判断することを好む。その傾向は、ソ連崩壊によってますます強くなり、自分たちは先進国のリーダーとして何をしても咎めを受けることはないという幻想をアメリカに抱かせることになったとプーチンは分析している。ソ連崩壊と冷戦終結にともなって、ロシアはアメリカを中心とする西側諸国を信頼し、モスクワのアメリカ大使館に仕掛けてあった盗聴システムをそっくりアメリカに引き渡したのに、われわれは常にオープンなのに、と当時を振り返り、忸怩たる思いも吐露する。

イラクをはじめ、リビアやシリア情勢に関して、プーチンの発言で意外だったのは、「民主主義を輸出することはできない…社会の中から生まれるべきものだ。そのほうが困難だか、うまくいく可能性は高い」と、爆撃機を送り込んで事態を収拾させる方法を否定していることだ。そうした乱暴な方法がテロとの闘いを生むのだ、と。では、クリミア危機やウクライナ騒乱、チェチェン紛争などはどうか。「またロシアが、プーチンが、ソ連の時代に戻そうと乱暴な手段で各国の独立を脅かしている」などという目で私たちは見てしまうが、それはプーチンに言わせれば「独立してしまった国に残されたロシア人はどうなるのか」という強烈な愛国心の成せる業にほかならない。

そのほか、「スノーデンの問題にはかかわりたくなかった」「2016年アメリカ大統領選挙へのロシア介入はアメリカ国内政治の駆け引きだし、そんな嘘には巻き込まれたくない」といったプーチンの「本音」が満載の一冊だ。これまで、人間としてのプーチンに触れる機会はほとんどなかったが、冒頭で語られる彼の生い立ちや来歴部分を読むと、個人的には案外信頼できる人物なのかもしれない、という気にもさせられる。

20時間にわたるインタビュー全編において、どんな資料でも原文を入手して全てに目を通すというプーチンは、決してアメリカや他国に対して評価をくだす訳ではなく、客観的事実から分析するという姿勢を崩さない。気になる北方領土問題も、巻末の鈴木宗男氏の解説と本文をあわせて読むと、これまでの経緯に関する理解も深まり、解決の糸口が見つかるのではないかという思いにもなる。プーチンが語る全てが真実かどうかは神のみぞ知るところだが、どうしてもアメリカ側に寄って立つ見方をしてしまう私たちが、混沌とした国際情勢を読み解く上で一石を投じてくれるのは間違いない。

インタビューの内容は、アメリカのケーブル・チャンネル「SHOWTIME」を皮切りに、英国、フランスなどでも放送された(全4回シリーズ)。日本でも、ロシア大統領選挙直前の二月末深夜からNHKBS1「BS世界のドキュメンタリー」で前後編にわたって放送の予定だ。(土方奈美訳)
この記事の中でご紹介した本
オリバー・ストーン オン プーチン/文藝春秋
オリバー・ストーン オン プーチン
著 者:オリバー・ストーン
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年2月23日 新聞掲載(第3228号)
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