ミュージカルへのまわり道 書評|石塚 克彦(農山漁村文化協会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年2月24日 / 新聞掲載日:2018年2月23日(第3228号)

劇団の歴史が日本の農政や社会現象と結びつく

ミュージカルへのまわり道
著 者:石塚 克彦
編 集:ふるさときゃらばん出版する会
出版社:農山漁村文化協会
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いま日本のミュージカルといえば、どのようなイメージだろうか。おそらく、劇団四季や東宝ミュージカルに尽きるのではないか。しかし、大都市圏の劇場で華やかに行われる輸入物のスペクタクル色の強いミュージカル以外にも、実際は多様なミュージカルがある。その一つが、石塚克彦が主宰していた「ふるさときゃらばん」だろう。ミュージカルのメインストリームから見れば、それは特異な活動だ。オリジナルの日本の社会問題を入れ込んだミュージカル作品をつくり、日本各地をまわる。地方公演といっても、大都市圏だけではない。小さな地域にいたるまで公演をする。その方法は、むしろ新劇系の衛星劇団に近い。いや、その一つに数えられる。

その劇団の機関紙に連載していたエッセイをまとめたものが本書だ。幼少期の思い出からはじまり、青年期に学んだ美術については、奈良で一時期暮らしたことによる仏教などの日本美術とマヤコフスキーなどのロシア・アヴァンギャルドへの興味が混ざり合う。師と仰ぐ脚本家の山形雄策から習った脚本の書き方など、その関心の幅広さはエッセイにもあらわれる。そして、下積みとして劇団員であった新制作座、分離独立をした統一劇場、そしてふるさときゃらばんへと、自身の軌跡が描かれる。

地域で公演をする、もしくは地域でも受け入れられる公演とは、どのようなものなのか。試行錯誤した自身の劇団での結果として、いくつかの代表作『ザ・結婚』や『ムラは3・3・7拍子』、アメリカのプロダクションとの共同製作『Labor of Love』などの苦労話があげられる。ふるさときゃらばんの活動は、期せずしてアメリカの地域演劇であるリージョナル・シアターのミュージカルに、文化も文脈も違う日本のなかにおいても、共通する構造をもっていたのではないか。むしろ、アメリカのミュージカルとしてイメージされる華やかなオン・ブロードウェイ・ミュージカルの方が、ニューヨークという特殊な場所のものだ。

そして、最後には棚田とのかかわりが述べられる。第一回の棚田サミットを自治体とともに企画して開催したこと。棚田ブームの火付け役ともなったこと。単に地域をまわって公演するだけでなく、作品のための調査は必然的に日本の農政問題にも深い造詣をつくった。本書にエッセイを寄稿している人たちも、演劇やミュージカルの評論家や舞台関係者だけでなく、官僚や政治家といった人々も多い。人脈の広さは、劇団活動へのサポーターをする有名人の名前が挙がることからもうかがえる。それは経営とも結びついただろう。

ただし、本書ではある時期までのエッセイで占められて、晩年の劇団の経済的な行き詰まりなど、その後の展開と帰結については触れられていない。だが、このような劇団の歴史が政治といかに結びついて、日本の農政や社会の現象、もしくは歴史を表象したのか。それを客観的にミュージカル史の一つとして研究する本も欲しいと思わせた。
この記事の中でご紹介した本
ミュージカルへのまわり道/農山漁村文化協会
ミュージカルへのまわり道
著 者:石塚 克彦
編 集:ふるさときゃらばん出版する会
出版社:農山漁村文化協会
以下のオンライン書店でご購入できます
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