エッジィな男 ムッシュかまやつ 書評|サエキ けんぞう(リットーミュージック)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年2月24日 / 新聞掲載日:2018年2月23日(第3228号)

◇愛溢れる評伝◇ 
ムッシュのエッジィさの秘密は“精神性”

エッジィな男 ムッシュかまやつ
著 者:サエキ けんぞう、中村 俊夫
出版社:リットーミュージック
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一九六五年生まれの評者がムッシュかまやつ、かまやつひろしを知ったのは、一九七五年に大ヒットした「我が良き友よ」でのことだった。かぐや姫「神田川」など四畳半フォークが流行していたあの時代、かまやつもそうした一人なんだろうと漠然と思ったように覚えている。

後年、文章を書く仕事をするようになり、音楽が守備範囲の一つだったこともあって、日本のロックやフォーク、歌謡曲の歴史などを押さえる必要に迫られた。それにともない、かまやつに対する印象も更新されてはいったのだが、存在の仕方が点描的というか、戦後のポップス黎明期から歴史の要所には必ずの影のようにいて、露払い的な功績を数々残していながら、どこか傍流的なのだ。音楽性にも統一感が乏しく、捉えどころがない。とはいえ活動を総ざらいするような機会に恵まれることもなく、総体を掴み損ねたまま、昨年の訃報を聞くことになった。

『エッジィな男ムッシュかまやつ』は、僕がいま述べたような印象のすべてが、かまやつの美意識からもたらされていたことを教えてくれる。それがすなわち「エッジィ」であるということなのだ。

たとえば、ビートルズを日本でいち早く見出したこととか、シンガーソングライターの草分けであることとか、最先端の音楽やファッションに対する反射神経であるとか、渋谷系や海外のガレージパンクの文脈で再評価されたことであるとか、嗅覚の鋭さや先駆性を示すエピソードはたくさんあるのだけれど、そうした出来事の点をプロットしていってもムッシュのエッジィさの本当のところは見えてこない。

エッジィさの秘密はむしろ、そういった折々の判断や行動を決めていた、あえて言うなら精神性にこそにある。死去を受け『ギター・マガジン』二〇一七年五月号がムッシュ特集を組んでおり、引退表明後メディアへの露出を控えていたザ・スパイダースからの盟友・井上堯之が、ムッシュの話ならとインタビューに応えていた。ムッシュは本当にカッコよかった、一緒にいられるだけで誇らしかったと語る井上がその理由にあげるのは、かまやつの音楽に限らない自由奔放さと、自由さに裏打ちされたセンスだ。エッジィとはそういうことなのである。

著者のサエキけんぞうは自身ミュージシャンであり、かまやつとの親交もあったが、ライブも含めてかまやつの活動を早くから追ってきたことが記述から滲み出ている。もう一人の著者・中村俊夫は七〇年代に『ミュージック・ステディ』という雑誌を興した音楽評論家・プロデューサーで、日本ロックの生き字引みたいな人だ。そんな二人がムッシュのエッジィさを描き出すべく腐心した、愛溢れる評伝である。
この記事の中でご紹介した本
エッジィな男 ムッシュかまやつ/リットーミュージック
エッジィな男 ムッシュかまやつ
著 者:サエキ けんぞう、中村 俊夫
出版社:リットーミュージック
以下のオンライン書店でご購入できます
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