四月になれば彼女は 書評|川村 元気(文藝春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2018年2月24日

川村 元気著 『四月になれば彼女は』
立命館大学 時實 史織

四月になれば彼女は
著 者:川村 元気
出版社:文藝春秋
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あなたは今、恋をしていますか?

著者が東京にいる男女200人に質問したところ、1人も恋をしている人がいなかったという。しかしその誰もが、10、20年前には熱烈な恋愛をしていたと語った。昔はあったはずの恋愛感情が、今はなくなっている。恋愛感情は本当に消えたのか?映画プロデューサー・川村元気氏が描く「ラブレスなラブストーリー」である本書で、読者は答えを探していく。

主人公の精神科医・藤代俊は婚約者の獣医・坂本弥生と同棲している。一緒に暮らして数年が経ち、「お互いに万事の最適解をわかっている」ふたりだが、そこに愛があるのか藤代にはわからなかった。結婚式を1年後に決めた4月のある日、はじめて付き合った彼女・伊与田春から手紙が届く。手紙には、旅先のウユニでの日々に加え、藤代と春の恋のはじまりが綴られていた。3通の手紙を通して藤代は春との、そして弥生との恋を思う。年が明けた1月、弥生が突然いなくなり、彼女から手紙が届く。春からの手紙にも隠された理由があったことを知り、藤代はひとり、インドのカニャークマリへ向かう。そこにいる“いま”大切な人と、朝日を見るために。

今の藤代の日常、大学時代の日々、弥生との会話、春との恋の記憶……過去と今が交互に描かれていく本書を読んでいると、寄せては返す波の中にいるような気分になってくる。まっすぐな気持ちでいられた春との恋の記憶が、弥生との間にかつてあった感情―そして今は喪失してしまっているもの―をゆらゆらと浮かび上がらせる。著者は、誰もが熱烈な恋をしていたはずなのに、今は誰も恋をしていないことを、藤代のこころを通して描き出したのだと感じる。しかし、藤代と弥生の間の、いや、あなたの中の恋愛感情は、本当に消えたのだろうか。

特に心惹かれた言葉が、春が最後に書いた手紙の中にある。
「わたしは愛したときに、はじめて愛された。それはまるで、日食のようでした。「わたしの愛」と「あなたの愛」が等しく重なっていたときは、ほんの一瞬。避けがたく今日の愛から、明日の愛へと変わっていく。けれども、その一瞬を共有できたふたりだけが、愛が変わっていく事に寄り添っていけるのだとわたしは思う。」

つまり、恋愛感情は消えたわけではない。ただし、今の愛は、あなたが誰かを愛することからしか始まることはない。そしてあなたが誰かを愛し、誰かから愛される、その互いの愛はほんの一瞬重なって、後はどうしようもなく違っていく。だからこそ、「ふたりの間に残っていると信じることができるもの、そのカケラをひとつひとつ拾い集め」て変わっていく愛に寄り添うことが、愛するということなのだと思う。まずは「愛せばきっと相手の心にも愛が生まれると信じて飛び込む」ことから、あなたと誰かの愛は生まれるのではないだろうか。

本書を読み終わった後、もう一度問いかけてみてほしい。今、あなたに愛したい人はいますか?
この記事の中でご紹介した本
四月になれば彼女は/文藝春秋
四月になれば彼女は
著 者:川村 元気
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年2月23日 新聞掲載(第3228号)
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