壁 書評|安部 公房(新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞
更新日:2018年2月26日

独創的で孤独な新しい世界に触れられて、恐ろしく、でもユーモアにあふれる作品
第22回芥川賞 安部公房著「壁」(1951年)


著 者:安部 公房
出版社:新潮社
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壁(安部 公房)新潮社

安部 公房
新潮社
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1951年、「近代文学」2月号で発表された第22回芥川賞受賞作品。

私が最近好きな作家、それは安部公房だ。きっかけは国語の教科書で紹介されていた「笑う月」という作品。月が不気味に笑っている奇妙な表紙が気になり読んでみると、独創的な新しい世界観に衝撃を受けた。それから気になりはじめて、安部公房が芥川賞を受賞していたと知り、今回は「壁」を選んだ。    

ある日突然、目覚めると自分の名前が逃げてしまった男「s・カルマ氏」。とてつもない胸の空虚感に襲われ病院を訪れると、胸の中は空っぽだった。彼の胸の陰圧は、病院に置いてあった雑誌の風景を吸い取り、動物園のラクダまで吸い取りそうになると彼は窃盗の罪で裁判にかけられる。現実世界から見放され、奇妙な世界にとらわれた彼の愛情は、マネキン人形、ラクダへと注がれる。壁をも吸収し、やがて彼自身が「成長する壁」と化していく。

カルマ氏の誰にも理解されない寂しさを安部公房にしか描けない世界観で表現した作品だ。

今から94年前、東京府で生まれた安部公房は、東京大学医学部を卒業し、三島由紀夫らとともに活躍した第2次世界大戦後派の作家である。その独創的な発想を生かし、演出家、劇作家と様々な活動をしてきた。なんといってもその特徴は、やはり「私は色鉛筆を食べて死んでもいい」などの作品にも出てくるような、狂気的、独創的な世界観。カフカの「変身」を読んだ時と同じ恐怖感さえも抱く。その発想はどこから生まれたものなのか。そのルーツを探ってみると、影響を受けたのはルイス・キャロルやリルケ、ハイデッガーなどの外国文学のようだ。

また、安部公房自身はどのような人物なのか。作品のように暗い、狂気的な人物なのか。

調べると実は、アウトドア派。趣味は車やカメラ。と、いたって普通の趣味。人物像からは、作品のような印象は受けない。それがかえって謎めいている。

不思議に感じたのは、作品のタイトルである「壁」。壁というと、家や部屋にある硬いコンクリートを思い浮かべる。しかし、作品中にはこう書かれている。「それは、古い人間のいとなみ」「実証精神と懐疑精神の母胎」、部屋の仕切りのようなものが人間の精神の根源であると。壁がまた違うものに思えて私も壁をじっと見つめてみた。やはり壁は壁だ。ものである。しかし壁を一人でずっと見ていると、「ひとり」でいることの孤独感を強く感じた。

独創的で孤独な新しい世界に触れられて、恐ろしく、でもユーモアにあふれる作品。今図書室で借りている「砂の女」のほかにも安部公房の謎に包まれる作品をたくさん読んでみたい。


【おまけ】
「2018年も、みなさまにとって良い年でありますように。今年もよろしくお願いいたします」
この記事の中でご紹介した本
壁/新潮社
著 者:安部 公房
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
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