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八重山暮らし
2018年3月6日

八重山暮らし(31)

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やがて潮だまりができる。浜下りは家族で潮干狩りを楽しむ日。
(撮影=大森一也)
浜下り

「あがやぁ! おんななら、海に行かんと!」

有無を言わせず、尻を叩かれた。機音高く織仕事に没頭していたのだが…。

どうやら、今日は機織りどころではないようだ。仁王立ちのオバァの横をすり抜け、海辺へといっさんに自転車を走らす。

島の女性にとって、災厄を祓い清めるための行事「ハマウリ(浜下り)」。旧暦三月三日に行われ「サニズ」とも呼ばれている。その由来は、青年に化けた蛇と関係を持った娘が、浜に下りて潮で己の身を清めた、という言い伝えによるものだ。

折しも、この時期は干満の差が大きく、とりわけ大潮の海辺は真っ白な砂浜と露わになったサンゴや岩場がひと続きになる。魚や蛸や貝、モズクといった魚介類の天然の生け簀と化す。それは海の恵みを拾い上げるといった感覚に近い。織り仲間たちは帽子を目深に被り、童女のごとくはしゃいで連れ立つ。海を皮膚感覚で愛でる、あけすけな素直さがまぶしかった。

マングローブに守られた小さな入り江は、小糠雨に濡れていた。先だっても、クール(紅露)で染めた綿糸をこの浜で洗った。海水にくぐらせた糸は、こっくりとした滋味深い茶になる。潮が糸に彩りを添える。その浜辺へと独り下りて行く。手足をそろそろと浸し、まぶたを閉じた。
(やすもと・ちか=文筆業)
2018年3月2日 新聞掲載(第3229号)
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