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2018年3月6日

◇小説家という孤島へ◇

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悪い夏(染井 為人)KADOKAWA
悪い夏
染井 為人
KADOKAWA
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まず、こうしてモノを書いている自分が滑稽である。おかしくて仕方がない。

根がふざけた人間であることは三十年も生きていれば鈍感な私でもさすがに悟る。そしてある種のあきらめを覚える。もう、まっとうな人生は歩めない、と。(まっとうの定義は人それぞれだと思うが)

私は現在、某芸能プロダクションのチーフマネージャーを務めている。今年で十三年目だ。別に華やかな世界で働きたかったわけではない。流れ流されたどり着いた先がたまたま芸能界という島だったのだ。幸い、そこには私のように少しばかりネジの外れた人々が住んでいて、私を快く受け入れてくれた。だからこうして十年以上食ってこれた。

ただいつしか私はそんな島にさえ、息苦しさを覚えるようになった。波打際に立ち、果てない海を見つめ、どこかにあるであろう無人の孤島に想いを馳せるようになった。

小説「悪い夏」を書いたのはそんな動機からだったのかもしれない。しれないというのは、当時の自分がはたして何を考えていたのか、どうも曖昧模糊としていて判然としないのである。執筆に至った動機は一つだったかもしれないし、数えきれないほどあったのかもしれない。本当に思い出せないのだ。

ただ、疲れていたなとは思う。けっして小説家への夢を抱いていたわけではなく、なんだっていいからこの場から逃げ出したいという消極的な思いからペンを取ったのだろう。

先日、二作目の初稿が上がった。現在三作目の構想をぼんやりと頭の中で練っている。ありがたいことにその先の依頼もいただいている。

考えると心臓がキュッとなる。ちゃんと書けるのだろうかと不安に押しつぶされそうになる。

私はプロットというものが作れない。何度も挑戦したがダメだった。結果行き当たりばったりで嘘を嘘で糊塗し、どうにかこうにか体裁を整えて、最後に半ば強引に「了」の字を入れて書き終える。ただ、それにもいつしか限界が来るだろう。そのとき、私は正気を保てるのだろうか。気が狂ってしまうのではないだろうかと恐怖を覚える。

一方、ど新人の身で何をたわけたことを、と要らぬ想像をする己を鼻で笑っている自分もいる。まだ私は小説家ではないのだから。

小説家という孤島が私の望むような理想郷なのかはわからない。きっとたどり着いてしまったら、そこにある現実に打ちのめされ、やっぱりみんなの元に帰りたいと泣き出すかもしれない。

ただ、もう船は漕ぎ出してしまった。

とりあえず向かってみたいと思う。
この記事の中でご紹介した本
悪い夏/KADOKAWA
悪い夏
著 者:染井 為人
出版社:KADOKAWA
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年3月2日 新聞掲載(第3229号)
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