手塚治虫―深夜の独り言 2回 「先生にはライバルはいますか?」|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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手塚治虫―深夜の独り言
2018年3月6日

手塚治虫―深夜の独り言 2回
「先生にはライバルはいますか?」

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「先生にはライバルはいますか?」

ある日、『少年サンデー』に連載中の「どろろ」の執筆前に私は先生に質問をした。執筆前のウォーミング・アップにたまには私の方から質問してもいいだろうと思ったからである。
「僕にはライバルはいません。しかし、絶対に許せない人がひとりいます。その人の名は横山光輝クンです。彼は風呂敷包みひとつを携え、着のみ着のままで神戸からはるばる僕の家を訪ね、強引にアシスタントになったと思ったら、アッという間にやめ『鉄腕アトム』の亜流『鉄人28号』をひっさげて売れっ子になったんですから。僕の所に来て僕のエキスを吸い取ってアバヨはないでしょ!」

この時の先生は怒り心頭に発するという姿であった。内心、私はシマッタと思った。こんな不快な思い出を下地にまんがを描く気にならなかったら大変だと思ったのだ。

しかし事は意外な進展をした。その怒りをバネにいつもより早くネームを書き、まんがを描きスムーズにアップした。フム、この先生怒らせたら仕事がはかどるのかなどと妙な事で感心したが、二度とこの手は使えないナと思ったものだ。

ライバルの話に戻そう。先生は「まんが三冠王」の自負があったと思われる。三冠は、(1)『鉄腕アトム』(2)『ジャングル大帝』(3)『リボンの騎士』を指している。主に、(1)は幼年読者、(2)は少年が読者、(3)は少女が読者。この三作で他のまんが家がどんな事をしても凌駕できないと思っていたフシがある。

それとホントは書いてはいけないが、最終学歴が大学の医学部で、医学博士を持っている「まんが家が他に居るかい?」という気持ちもあったようだ。

蛇足になるが、その数年後、「横山さんが麻雀をやりたいと言っているが一人足りない。中村クンつきあってくれないか」という担当編集者からの電話があり、横山邸に足を運んだ。半チャン一回終わった時点で二人の編集者はトイレへ。横山さんと私の二人だけが雀卓を前に向きあう形になった。私は、手塚先生の話を切り出そうと思ったが遂に口は開けなかった。何故って? 横山さんの風圧に押されてそんな質問出来るわけがない。まさに巨匠に圧倒されてしまった。因みにこの麻雀、横山さんの一人負けだった。手作りを楽しむ殿様麻雀と貧乏編集者のガツガツ麻雀の差が出たのだろう。
2018年3月2日 新聞掲載(第3229号)
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