三つの革命 ドゥルーズ=ガタリの政治哲学 書評|佐藤 嘉幸(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年3月3日 / 新聞掲載日:2018年3月2日(第3229号)

民衆の怒りと新たな生の創造としての革命

三つの革命 ドゥルーズ=ガタリの政治哲学
著 者:佐藤 嘉幸、廣瀬 純
出版社:講談社
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ドゥルーズ=ガタリの哲学は政治哲学にほかならず、その核心には革命という主題があると本書は断言する。佐藤=廣瀬氏によれば、三つの著作『アンチ・オイディプス』(一九七二)、『千のプラトー』(一九八〇)、『哲学とは何か』(一九九一)は、資本主義をいかにその下部から掘り崩し打倒するかという革命的戦術(ストラテジー)において一貫しつつ、各々が異なる戦略(タクティクス)によってその実現を図る。プロレタリアによる階級闘争、マイノリティによる公理闘争(権利闘争)、動物(マイノリティ)を眼前にした人間(マジョリティ)による政治哲学が各著作の主戦場となるが、それはロシア革命、社会主義体制の解体、NGOによる人道支援活動の台頭という時代状況に呼応している。戦術と戦略というフーコー的な議論設定もさることながら、なによりも、反原発運動やアウトノミア運動をはじめさまざまな政治的実践について論じ続けてきた両氏であるからこそ、本書を単なる概説書とはせず、実践的な政治哲学の書とすることが可能となった。結論「分裂分析と私たち」を見てみよう。

二〇一〇年以来の琉球における基地返還運動、二〇一一年三月十一日以後の原発再稼働反対運動から安保法制反対運動へと至る政治的(混乱)状況のなかで、「いかなる利害計算からも析出され得ない絶対的に異質な運動が同時に生起した」と佐藤=廣瀬は言う。基地経済の恩恵に与ることを拒否し、基地廃絶、本土からの独立を訴える琉球民族、電力の安定供給や雇用・経済の安定を顧みず、脱原発ないし反原発を訴える福島住民。経済資本主義に淫するマジョリティ(東京)からすれば、彼らの行動は、不合理、非社会的(反社会的)以外の何ものでもなく、その運動を担う「市民」は「土人」、「放射脳」であるほかない。しかし、そんな「土人」や「放射脳」こそが、いかなる経済からも労働からも脱却し、自らの社会的生活を賭して「新たな生の創造という同一の無限過程の上に自らを再領土化しつつある」のだと、彼らの生を本書は肯定する。そして、彼らを「犠牲者」とみなし、彼らを前に絶望し、責任(恥辱)を感じる人間(マジョリティ)にのみ政治の可能性を担保する哲学的議論を(したがって『哲学とは何か』をも)批判し、彼らは「生け贄にされるがままの山羊、野垂れ死にしつつあるだけの動物ではないということ、反対に彼らは、屈辱そして怒りを知る土人であり、闘う力を有し、実際に闘っているインディアンである」と返す立論は圧巻だ。

ところで、資本主義が依然としてその対象領域を拡張し、今後も自己増殖を続けるのだとすれば、ドゥルーズ=ガタリは不可能な革命を、資本主義とそれに準拠した国家の解体の不可能性を唱えているのか。そうではないと思う。『意味の論理学』(一九六九)と『批評と臨床』(一九九三)においてドゥルーズは、キャロルの最後の小説『シルヴィーとブルーノ』に即してこう語っていた。「純粋で混淆ぬきの出来事は、混じり合った物体(身体)のうえ、錯綜するアクションとパッションのうえで光り輝く。大地から立ち昇る蒸気のように、それらの出来事はある非物体的なるものを、すなわち、さまざまな深みの純粋な「表現されたもの」を、表面のうえに解放する(dégager)」(『批評と臨床』河出文庫、五五―五六頁)。この純粋で非物体的な出来事を革命と呼べば、それは資本主義(物体)の裏側につねに並行し、あらゆる経済活動からも解放されて存立するがゆえに、資本による公理化よりもつねに少しばかり先んじる。革命は、人々の怒りと同様に、そこで創造される新たな生とともに、すでにいたるところに存立する。本書が、ドゥルーズ=ガタリの戦術を引き継ぎ、新たな戦略によって新たな出来事、新たな生を見出しえたのと同様に、本書もまた、すでに存立するさらなる革命にむけて、またそれを担う新たな民衆にむけてすでに呼びかけている。
この記事の中でご紹介した本
三つの革命 ドゥルーズ=ガタリの政治哲学/講談社
三つの革命 ドゥルーズ=ガタリの政治哲学
著 者:佐藤 嘉幸、廣瀬 純
出版社:講談社
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