わが妹、ヴァージニア 芸術に生きた姉妹 書評|スーザン・セラーズ(彩流社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年3月3日 / 新聞掲載日:2018年3月2日(第3229号)

モダニズム運動を主導した姉妹の日々を小説のかたちで解き明かす

わが妹、ヴァージニア 芸術に生きた姉妹
著 者:スーザン・セラーズ
出版社:彩流社
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画家の姉ヴァネッサ・ベルと小説家の妹ヴァージニア・ウルフ――男性優位の考え方が圧倒的な力を振るっていたヴィクトリア時代の一九世紀後半からその旧態依然の影響力がまだ強く残る二〇世紀前半にかけて、ブルームズベリ・グループのメンバーとしてそれぞれの芸術を追求しながらイギリスのモダニズム運動を主導した姉妹。当時の二人の日々を、英文学者である著者が日記、伝記、手紙その他の調査研究等、事実に基づく情報に依拠しながらも、彼女らの人生の解明できない数々の謎や疑問を事実から生まれる真実ではなく想像力を駆使することによって、つまり小説という架 空の物語が生み出す真実によって解き明かそうとしたのが本書である。

身辺で起こったことや自分の感情を「わたしは」という語り口で、妹ヴァージニアには「あなた」と語りかけるヴァネッサの日記形式をとったこの小説には、ブルームズベリ・グループやその周辺の面々――クライヴ・ベル、メイナード・ケインズ、ダンカン・グラント、リットン・ストレイチ、ロジャー・フライ、レナード・ウルフやヴィタ・サックヴィル=ウェスト、キャサリン・マンスフィールド、T・S・エリオット等々――が登場する。そしてこれらの人物との関係や言動、このグループに対する非難への反論、旧弊な巨匠たちに囚われた当時のエリート階級の知的状況、絵画と小説の芸術上の相違点、婦人参政権問題、二つの大戦が及ぼした影響、ヴァネッサと男性たちとの奔放な愛情関係に加え、何よりも妹ヴァージニアへの深い愛情と嫉妬、芸術家としての葛藤など複雑な感情が生々しく描かれている。そして読者にとっては、ブルームズベリ・グループと関わりの深かった当時の文壇人や画家たちの姿を、フィクションであるにせよ、この時代のロンドンのブルームズベリ地区を背景に思い描くことができるというのはこのうえなく嬉しいことであろう。そして、ヴァネッサの書く日記はいかにも画家の書いた文章というべきもので、対象の構図や色彩がきわめて微細かつ繊細な表現によって視覚的・絵画的に描かれており、読者はまるで描かれた絵の一枚一枚を眺めているかのような気になるのである。

この小説の中でヴァネッサは、ヴァージニアの『灯台へ』に何度も言及しながらこの作品を傑作だと称賛し、両親(レズリー・スティーヴンとジュリア)の思い出を描いてその二人の姿が元型としての機能を果たしていると指摘しながら、伝記と芸術の間に橋を架ける方法をあなたは見出したのだと妹に語りかける。伝記をどうやって小説化するかという問題は、作者スーザン・セラーズにとっても本書の大きなテーマであったと思われるが、『灯台へ』に描かれたエピソードがこの小説のヴァネッサや母親のこととして取り扱われていることを考えるなら、両親に対するヴァネッサの思いは妹の思いとは異なるものであろう。それはヴァージニアの『灯台へ』をセラーズが語り直すもう一つの『灯台へ』とみなすことができ、彼女が考えている伝記と小説の間に橋を架ける方法なのかもしれない。

巻頭には著者からの「日本の皆様へのご挨拶」、巻末には訳者による念入りな「登場する人物・事物の伝記的説明」と「あとがき」が付されており、くわえて翻訳もこなれた日本語のおかげで読み易く丁寧なものとなっているが、いくつか誤字・脱字箇所があるのが残念である。(窪田憲子訳)
この記事の中でご紹介した本
わが妹、ヴァージニア 芸術に生きた姉妹/彩流社
わが妹、ヴァージニア 芸術に生きた姉妹
著 者:スーザン・セラーズ
出版社:彩流社
以下のオンライン書店でご購入できます
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