メディア不信 何が問われているのか 書評|林 香里(岩波書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2018年3月3日

ジャーナリズムの弱点は商業主義と国家主義

メディア不信 何が問われているのか
著 者:林 香里
出版社:岩波書店
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本書は、「メディア不信」を遡上にあげ、その現象を英米独日で国際比較し、日本のジャーナリズム状況の懸念材料を整理、問題提起するものとなっている。

著者は、日本で見られる「メディア不信→メディア不要論→メディア無関心」は、欧米の「民主主義への参加の意欲→メディア不信→メディアへの関心の高まり」と異なる、と分析する。日本の人びとのメディア不信(メディア無関心)は、ネットの技術を駆使することで強まっている商業主義や排外主義に、より一層の拍車をかけて民主主義の崩壊を引き起こす、と懸念する。

本書の前半は、二〇一六年四月から一年間の在外研究の見聞録となっている。シカゴ、ロンドン、ベルリンなどに滞在し、各国の政治的論争とメディアの関係性や、選挙結果という民意の形成過程を、観察記録している。それらの見聞録の上に、各国で行われているニュース・メディア調査の結果を重ねて考察する。本書の後半では、日本におけるニュース・メディアの動向、例えば、朝日新聞たたきや産経新聞のメディア戦略の諸相などを記し、国際比較研究を展開することで、著者の問題提起に説得力を持たせる構成となっている。

見聞録の対象となった時期は、欧米各地で、新聞やテレビといったマスメディアの予測や論評とは異なる選択が、選挙結果として現れ続けていた。例えば、英国のEU離脱という選挙結果、米国でのトランプ政権の誕生など。ドイツでは、難民政策の行き詰まりを端緒として右傾化する世情とプレスコードの改正に注目することで、ドイツ社会の深層における変動を捉えようとしている。

考察の根拠として多用されているのは、英国オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所の年次報告である。同研究所は二〇〇四年から、メディアのデジタル化の諸相を追跡している。最新の一七年度調査報告では、三六か国七万人のネットユーザーへのアンケートの分析を行った。この他、米国のピュー・リサーチセンター、日本の新聞通信調査会ほか、各国で行われている様々な調査結果を利用しており手堅い。

これらの国際調査から導き出されるのは、ネット利用状況を個別分析して打ち出されるマイクロプロパガンダや、ネットへの書き込みをロボットが連打するコンピュテーショナル・プロパガンダによる、商業的・政治的な人々への態度変容の圧力の強大化である。結果として、個人の自由意志による選択を是とする民主主義の理想と現実の亀裂は深刻化の一途である。著者はこういった状況認識のもと、主に以下の四つの重要性を指摘する。

その第一は、日本の「メディア不信→メディア無関心」から、商業主義や排外主義に対抗する議論の活性剤となっている欧米型「メディア不信」への転換。第二は、ニュース・メディアによる、単なるファクトチェックにとどまらない内部改革の必要性。第三は、社会の共通基盤としての「公共性」を再興する制度設計の検討。第四は、これらのために、業界でも政府でもない、第三の軸となる独立した研究と教育の蓄積、である。

本書は、ニュース・メディアの大きな転換期にある二〇一六年前後の四か国記録と、ニクラス・ルーマンの社会システム論を援用したニュース・メディア研究の方向性を示す、というふたつの意義がある。新書サイズながら、視野の広がりが魅力である。ジャーナリズムには、商業主義や国家主義の行きすぎによって理念が機能不全に陥る弱点がある。本書は、日本のジャーナリズムの危機状況が一層深まると判断すべき根拠を示す一冊である。
この記事の中でご紹介した本
メディア不信    何が問われているのか/岩波書店
メディア不信 何が問われているのか
著 者:林 香里
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年3月2日 新聞掲載(第3229号)
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