漂流するトモダチ アメリカの被ばく裁判 書評|田井中 雅人(朝日新聞出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!
▶メールマガジン登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

読書人紙面掲載 書評
2018年3月3日

「都合の悪い事を隠蔽する」政府 
トモダチ作戦の被曝の検証は福島の人びとにとっても重要な意味を持つ

漂流するトモダチ アメリカの被ばく裁判
著 者:田井中 雅人、エィミ・ツジモト
出版社:朝日新聞出版
このエントリーをはてなブックマークに追加
二〇一一年三月一三日、アメリカ海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」が三陸沖に到着し、約一カ月間におよぶ「トモダチ作戦」が始まった。艦内の食料や飲料水、衣類などの救援物資を運ぶヘリコプターが、被災地との間を往復し、救難活動にもあたった。しかし、福島第一原発の水素爆発で大気中に放出された放射性物質の八割は、折からの季節風に乗って海側に流れた。その風下に入ったレーガンの乗組員約五千人は、大量の放射線を浴びてしまった。艦内では、汚染された海水を脱塩した水を飲んだり、シャワーを浴びたりしたのである。
「日米同盟の絆」をアピールしたトモダチ作戦の陰で、ガン発症者二三人をはじめ、白血病、甲状腺疾患などを発症する乗組員が続出した。しかし米国防総省は、トモダチ作戦による被曝と乗組員の病気との因果関係を否定している。兵士は軍規上、軍を訴えることができない。そこで二〇一二年、東京電力や日米の原発メーカーを相手取り、医療費などにあてる基金の設立や賠償を求め、アメリカの裁判所に提訴した。原告は現在、四百人以上。裁判は長期化し、このうち九人がすでに死亡した。本書は原告に取材した、日米二人のジャーナリストによる最新の調査報告である。

衝撃的なのは、米軍が対応の不手際を徹底的に隠蔽しようとしたことである。米軍は一八五キロ沖に停泊したと発表しているが、乗組員たちは被災地を間近に見ている。さらに、多くの乗組員が、被曝を避けるためのヨウ素剤を飲んでいないにもかかわらず、「飲んだ」という書類にサインするよう強要されている。

退役軍人病院に入院中の元乗組員は、トモダチ作戦における被曝について、ベトナム戦争で枯葉剤の人体に与える影響を米軍が認めようとしなかった事件に匹敵すると見る。そのうえで、政府というものは「都合の悪い事を隠蔽する」と指摘する。それは、劣化ウラン弾で被曝した米軍兵士に対する対応を見ても明らかだ。だからこそ、レーガンの乗組員たちは、裁判で実態を明らかにせざるを得ないのである。

原告の訴えは、暗闇で警告を発する「炭鉱のカナリア」を思い起こさせると、著者は言う。トモダチ作戦における被曝の検証は、専門家によって「因果関係はない」と切り捨てられてきた福島の人びとにとっても、きわめて重要な意味を持つ。

しかし日本はもちろん、アメリカでも、マスメディアはこの訴訟をあまり取り上げようとはしない。実際、著者が裁判を傍聴したときには、他に記者がいなかったのだ。カナリアの声に耳を傾けるメディアの、なんと少ないことか。

ネット上では「金銭欲のため」「注目を集めたいだけ」などという誹謗中傷が氾濫する。被害者はますます、声をあげづらくなる。

安倍首相は二〇一五年にアメリカ議会で演説し、「私達には、トモダチがいました」と、アメリカの支援を感謝した。そのトモダチが困っているのである。日本側は手を差し伸べるべきなのに、日本政府は法廷助言者として裁判所に意見書を提出し、賠償を拒否する被告側を支持した。著者は裁判長の言葉を、次のように記録している。
「オバマ米政権に支援を求めた日本政府が、今になって兵士たちの健康被害がアメリカ海軍の無責任な行動の結果であるなどと位置づけるのは、一八〇度の変節である」

日本政府は、裁判長の指摘にどう応えるのだろうか。ぜひ続編を期待したい。
この記事の中でご紹介した本
漂流するトモダチ アメリカの被ばく裁判/朝日新聞出版
漂流するトモダチ アメリカの被ばく裁判
著 者:田井中 雅人、エィミ・ツジモト
出版社:朝日新聞出版
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年3月2日 新聞掲載(第3229号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
中村 尚樹 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
社会・政治 > 社会全般関連記事
社会全般の関連記事をもっと見る >