三つの悪夢と階段室の女王 書評|増田 忠則(双葉社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2018年3月3日

増田 忠則著 『三つの悪夢と階段室の女王』
愛知県立大学 市川 由樹

三つの悪夢と階段室の女王
著 者:増田 忠則
出版社:双葉社
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お気に入りの作品は『マグノリア通り、曇り』です。行政書士の斉木のもとに誘拐犯を名乗る人物から電話が掛かってきます。私に何の恨みがあると問う斉木に、犯人は「斉木さん個人に対する恨みはありませんよ。」と答えました。

人はつくづく勝手です。何かにつけて優先順位を定め、大切なもの以外は平気で捨ててしまえます。旅の恥はかき捨てということわざもありますが、知らない人のなかでしたら、何をしても構わないとも取れてしまいます。他人にはあまり関心を寄せないこともあるでしょう。結局のところ、一番かわいいのはかわいそうな自分自身です。「かわいそう」が大義名分となり、本人に妙な勇気を与えてしまいます。これから行う内容が悪であっても、かわいそうな自分は善であり、全体として善である行動と思い込んでしまうのです。

たとえば、定番ですが、とても急いでいるときに赤信号で待っていると、隣の人がそのまま歩いて通って行ったとします。それを見た別の人も渡っていきます。そのとき自分も渡ってしまおうという心理にはなりやすいです。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という言葉もありますが、車がいないのならば轢かれる心配はありません。ですが心のどこかに引っかかりを覚えるものです。それを無視して、その態度を続けることもできます。しかし誰かに口出しされたときに思うはずです。自分だけ指摘されるのはおかしい、と。集団で違反しているときは罪が薄くなるような感覚を持ってしまいます。そして特に自分が摘発されることはないと考えてしまいます。また宝くじが当たる確率と病気が再発する確率が同じでも、どちらの可能性が高いと感じるかは人それぞれです。赤信号を渡ってしまう人は前者である人が多いでしょう。

また「偶然」という言葉があります。よく口にする言葉ですが、それが起こる確率はゼロではありません。だから起きているとも言えます。生きていると予期していなかった出来事は多く起こるでしょう。不測の事態などと言われると、どんな出来事が起こったのか興味を持ってしまいます。しかし計画が練られ、それがそのまま順調に、少しの誤差もなく進むことは逆に珍しいです。偶然が必然であると言えます。しかしその出来事の原因が自分にあると思えないと、別のことを恨んでしまいます。悪意が向けられた人は理不尽な恨みに対し新たな恨みを生み、周りを正しく見ることが困難になってしまいます。

述べてきたことは当たり前と言えることだと思います。しかしそれは客観的に見た場合です。物語の中の切迫した状況に入り込むことで、人の性を色濃く実感することができます。現実では起こりえない設定でありながら、なぜかリアリティを感じさせてくれる一作です。自分は大丈夫と思ってしまいがちですが、それは危ないことです。だれもが偶然、物語の序の口に立っているのかもしれません。
この記事の中でご紹介した本
三つの悪夢と階段室の女王/双葉社
三つの悪夢と階段室の女王
著 者:増田 忠則
出版社:双葉社
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年3月2日 新聞掲載(第3229号)
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