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八重山暮らし
更新日:2018年3月13日 / 新聞掲載日:2018年3月9日(第3230号)

八重山暮らし(32)

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奄美、沖縄諸島に自生するテッポウユリ。別名リュウキュウユリ。 (撮影=大森一也)
ユリの咲く頃


春を追いかけ夏が来る。島の三月は気忙しくも、こころは浮き立つ。海開きも間近だ。それを過ぎれば、クサゼミの初鳴きに長い夏の始まりを知る。

島の花々が、こぞって咲く。台風の大風になぎ倒される心配もない。日傘を差しての散歩には、おあつらえの季節。海を望む公園はヒメキランソウが満開だ。瑠璃色の小さな花弁が地面をびっしりと覆っている。海岸沿いではテッポウユリの甘い芳香が漂う。春たけなわを親子で愉しむ。

隣の原っぱで少年たちがサッカーに興じている。島ぞうりを脱ぎ散らし、裸足でボールを蹴っている。そういえば、休日にグラブを持たず、素手で野球をしていたのも、この子らだろうか…。一個のボール、一本のバットさへあれば、逡巡する間もなく遊びが始まる。それがいい。首をくの字に曲げ、スマホにかぶりつく子はひとりもみえない。それが至極いい。
「はいりたい、はいりたい」

幼い娘が足をばたつかせる。握り締めていた手を振りほどき、帽子も靴もかなぐり捨て、ボールへとひた走る。ちん入者に動じることなくサッカーは続く…。

青い空と海、咲き誇る花々。銀幕の情景を想わせる。だのに、少年は周囲に目もくれない。彼らが紡ぐ時空間には揚々とした息吹が満ちていく。三月のきららかな光と共に…。
(やすもと・ちか=文筆業)
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