1968[1]文化 書評|四方田 犬彦(筑摩書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年3月10日 / 新聞掲載日:2018年3月9日(第3230号)

◇前衛の星座◇
氷河的綜合をコンパクトに編集

1968[1]文化
編集者:四方田 犬彦
出版社:筑摩書房
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昭和元禄ちりぬるを、あさきゆめみし早や半世紀。ヒッピーフーテンたそかれて、すぎかきすらのはっぱふみふみ。

解体の時代、解放の時代、反抗の時代、叛乱の時代、情念の時代、肉体の時代。呪文のようにつぶやかれ続けてきたイチキューロクハチを主題に掲げた書籍や展覧会の類はすでに数多いが、いよいよ今年は50周年、満を持してのシリーズ企画である。選ばれたのは美術、グラフィックス、演劇、写真、舞踏、音楽、ファッション、映画、雑誌の9ジャンル。おっと、文学は、詩は、漫画は、テレビは、批評は? などと分野選定には意見が出てくるところだろうが、そのいくつかはシリーズで補完されていくはずだ。本書内に告知は無いが、ウェブでは続く巻として文学特集が予告されている。

全416ページのおよそ半分は図版ページであり、論集であるとともにヴィジュアルブックとしても構成されている。ならばテキストと図版が整然と棲み分けるよりも総論・各論・作品解説とグラデーションをつけながら図録風あるいはグラフ誌風にまとめる手もあったのでは、と思ってしまうのは展覧会屋の性か(せっかく見開き掲載のプロヴォークや学生運動関連写真などは印刷のせいかどこか弱々しく、当時の雑誌書籍類ももっと状態の良いものがあったのではと思うもの多々)。とまれ、対象年代に青春を過ごしたほとんどの執筆陣によって実感を伴って語られる内容は、これから増えるであろう半世紀振り返りの入門にふさわしく、コンパクトに情報をまとめたハンディな記録集になっている。

中野翠や上野コウ志が活写しているように、この時代は学生運動やインフラとしての複製文化の興隆に伴って無名匿名個人の勇躍が大きなうねりを起こした時代でもあったわけだが、各論の大筋は各分野の前衛スターたちに紐付いたムーヴメントの記述だ。その結果、それぞれの論には不可避的に他ジャンルが顔を出し、また各論に共通して登場する人物も少なくなく、おのずと当時の相互交通的な、きらきらしい星座を浮かび上がらせる効果を生んでいる。したがってこの構成上の分類は必ずしも分断ではない。多様なジャンルが袂を分かって前衛を尖らせていった先に生じたこの時代の連帯を、三島由紀夫が「氷った孤独を通過したあとの氷河的綜合」と呼んでいたことが思い出される。

特に面白く読んだのは國吉和子と稲増龍夫の両論。前者はジャンルとしてのダンス全体を見渡すのでなく土方巽に特化した点で他と毛色が異なるが、それゆえテーマを深く掘り下げ、土方が端役で出演していた映画を丁寧に拾い上げて考察した。土方が「奇形や異形なものを、見世物のように陳列し、過酷な視線にさらすことを(…)徹底的に行っていた」との指摘は、土方の戦略的な批評眼に触れていて新鮮だった。他方この時代の音楽の中であえてグループサウンズ(GS)を選んで論じた稲増は、GSが本来持っていた世代間抗争的性格と今日におけるGSの懐メロ化の落差の中に、冷凍保存されたキッチュな「民族音楽」としての価値を見出そうとするおもしろい観点を披露した。

すでに微熱が生じつつある二度目の東京オリンピックを控え、西方ではもういちど大阪万博を開催せんと躍起だという。評者自身は日本での五輪も万博もうんざりだが、仮にまた熱狂とシラケの波が起こるならば、本書を紐解いてその差異を確かめるもよし、起こり得るフィーリングをあらかじめシミュレーションしておくのもいいだろう。
この記事の中でご紹介した本
1968[1]文化/筑摩書房
1968[1]文化
編集者:四方田 犬彦
出版社:筑摩書房
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