江戸川乱歩傑作選 書評|江戸川 乱歩(新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2018年3月10日 / 新聞掲載日:2018年3月9日(第3230号)

『江戸川乱歩傑作選』
北九州市立大学 野村 菜々実

江戸川乱歩傑作選
著 者:江戸川 乱歩
出版社:新潮社
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「好きな本は?」「江戸川乱歩の本!」こう答えると大半の人は、少し困った顔か引きつった表情で「そうなんだ。」と言う。そこで会話が終わってしまう。なぜか。それは江戸川乱歩という作家のイメージが影響しているからではないかと私は思っている。

確かに乱歩のイメージは「グロテスクで変態チックでアダルティ」な作家であり、実際そういう作品も多く、いわゆる「ヤバイ」作品があるのも否定しない。しかし、それが乱歩の全てではない。乱歩はミステリから幻想、怪奇、猟奇と様々な分野の作品を書いた天才作家であり、その多種多様な才能を味わう入門書として本書は最適である。

例えば『二銭銅貨』や『心理試験』は暗号、図表まで登場する本格ミステリであり、様々なミステリを読み慣れた私たちでも満足する内容である。ちなみに、『心理試験』の方には乱歩が生み出したかの有名な名探偵・明智小五郎も登場する。

もう少し乱歩っぽさを味わうのであれば『屋根裏部屋の散歩者』や『人間椅子』をお勧めしたい。両作品とも乱歩といえば、と言われるほどの超有名な短編作品である。誰からも気がつかれないよう屋根裏から他人の生活を覗いて楽しむ前者に、文字通り椅子と一体化して想いを寄せる相手に近づく後者。なるほど、乱歩特有の「アブナイ」世界が展開している作品だが、他人の生活を見たいという思いは誰もが持っているのではないだろうか。その証拠に、現在の私たちはSNSを通して他人の生活を覗いて楽しみ、「イイネ!」と評価さえしている。それとこれとは次元が違うと思うかもしれないが、他人の生活が気になるという点では同じと私は思っている。他人の生活を覗き見たいという欲求に、私たちも魅せられているのである。

そして、私が一番お勧めする話が『鏡地獄』である。この作品は前の二作に比べると、鏡好きな「彼」という変人が破滅するだけの小説と感じるかもしれない。しかし、彼が鏡の世界に没頭し、狂気の世界へ踏み込んでいくさまは乱歩以外、描ききれなかっただろう。

それがよく分かるのは、語り手Kが「彼の鏡の国」と称する全面鏡張りの部屋を彼が造った後である。彼はその国に、小間使いであり恋人である少女と一時間以上も閉じこもる。中で何が行われているか、外からは知る由もない。さらにはそこに生花を使って、「魔界の美」たる万華鏡の世界も造り出す。万華鏡の世界とは始まりも終わりもない世界であり、彼が狂気に呑み込まれかけていることが暗示されている。

そして、最後に彼は球体の鏡の中へ入る。そこに何が映し出されていたのか想像もつかないが、彼を探しに来たKが見たものが笑い声を響かせ左右に転がる球体だったのだから、彼が文字通り「狂人の国」に呑み込まれたことは明白なのだろう。

今、漫画やゲームで近代の文豪をモデルにしたものが流行っている。この機会にぜひ、実際に彼らが書いたものを読んでほしい。そして、「ヤバイ」と言われる江戸川乱歩の小説の「ヤバさ」を自分の目で確かめてほしい。

きっとそこには今まで気が付かなかった、新しい世界が広がっているはずである。彼のように、「ヤバイ」世界に呑み込まれない保証は出来ないけれど。


【関連サイト】
・北九州市立大学HPより『週刊読書人』連載・書評キャンパスに文学部学生の記事が掲載されました! 【広報係長日記】
この記事の中でご紹介した本
江戸川乱歩傑作選/新潮社
江戸川乱歩傑作選
著 者:江戸川 乱歩
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
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