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八重山暮らし
更新日:2018年3月20日 / 新聞掲載日:2018年3月16日(第3231号)

八重山暮らし(33)

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赤瓦の屋根では魔除けのための獅子像「シーサー」が家を守る。  (撮影=大森一也)
家の神々


染織の師は目を細めた。
「昔は、生まれたばかりの赤ちゃんの眉間に『ピャーク(百)』と言って、竃の石の煤を付けたさぁ」

いのちを無事授かった。その悦びを真っ先に家の火の神へ伝える。健やかな長命を一心に祈りながら…。

台所に祀られる家の神「ピーヌカン(火の神)」。一年に一度、天界に昇り、天の神にその家庭の事情を赤裸々に報告するという。
「だから、台所では悪い言葉を言えないよ。火の神が聞いているんだから。でないと、自分のしたことが皿の縁を回るように自分に返ってくるから…」

日頃の行いは天の神に筒抜けなのだ、と師は口をすぼめ静かに語った…。

おくればせの結婚、育児によって、台所に立つ時間が容赦なく増えた。代わって読書や散歩、その僅かないとまさへ手放すことを余儀なくされた。元来、料理好きだった。けれど激変した暮らしぶりにこころが追いつかず、さ迷う。せめて台所では、ため息をついても悪態だけはつくまい…。かろうじて自身を律することが叶ったのは、背中の赤子のためでなく、あの語りのお陰に他ならない。

日常に埋没した自我を丹念に掬いあげてくれる存在がある。決して、置き去りにされていないことをおんなは台所で唐突に気付く。台所の神さま…。なんと、真っ当な信仰だろう。
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