対談=横尾忠則×平野啓一郎 寒山拾得のように デ・キリコのように 『創造&老年』(SBクリエイティブ)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 特集
更新日:2018年3月16日 / 新聞掲載日:2018年3月16日(第3231号)

対談=横尾忠則×平野啓一郎
寒山拾得のように デ・キリコのように
『創造&老年』(SBクリエイティブ)刊行を機に

このエントリーをはてなブックマークに追加
第3回
§芸術の究極のテーマは「わからない」こと§

平野 
 子どものときにご両親が周囲の親たちより歳をとっていると、「大人」のイメージも二〇~三〇代ではなく、上の年代になってくるんですか。
横尾 
 大人のイメージというより、感じていたのは、死のイメージ。両親の死ぬことがいつも怖かった。周囲の子どもたちは、親が死ぬことなんてイメージしてなかったと思う。ぼくは常に、親の死が目前に迫っている感じがして、天涯孤独になったときにどう生きていけばいいかと心配していたし、溺愛されていたから親がいないとぼくが存在しないも同じだった。

ところが、父親が死んだのは二四歳のときでしたが、全然悲しくないし、これでやっと自分も大人になれたと、わいてきたのはそういう思いだったんですよ。親がいる間は、子どもなんです。電報で訃報を受けとった後、渋谷を歩くと街がパーッと光り輝いていたのね。ぼくの未来がワーッとそこに現れ出たみたいに。
平野 
 抑圧的なお父さんではなかったんですよね。
横尾 
 全くその反対。近所の人は仏様みたいと言っていた。とても暗い気持ちで東京に出て、二ケ月も経たないうちの訃報でした。でも、そこでやっと自分と出会えたのか、あるいは自分を抜け出したのか。

誰にでも幼児体験はあるはずだけれど、三島由紀夫さんは自分には「無意識というものはない」と言ったでしょう。無意識がないというのは、内なる幼児体験がないということかな、と思うのね。でも三島さんの書いたものを読むと、生後数日で祖母のところに預けられるという、強烈な体験があります。あれがどうして無意識にならないのか、ぼくにはわからない。
平野 
 幼少の家族体験を、三島さんは自分の創作の根本に据えませんね。『仮面の告白』などには少し書いていますが、そこから三島さんの文学が生まれているとは決して言わない。
横尾 
 そこに三島さんの原郷があるはずだとぼくは思うけど、それを三島さんは露出しない。

三島さんにあるときタクシーの中で言われたのは、三島さんとぼくには共通するところがあると。「きみは土着を描くことで土着を否定している」。自分にも土着はある。でも俺は土着を描かないことで土着を批判的に捉えている。そこが共通しているところだと。

ぼくの六〇年代のグラフィックデザインに対して、当時の評価は、「土着性を肯定している」という内容ばかりだったけれど、ぼくの感覚としては、三島さんの言うように、土着は忌々しいものでした。
平野 
 澁澤龍彥は、横尾さんの作品を「土俗的ポップ」と評していますね。澁澤は、横尾さんの土着に対する批評性を見抜いていたんですか。
横尾 
 土着に対する批評なんて、ぼくの中にはないよ。ただ郷里の家庭環境や地域環境から、できるだけ遠くへ行きたいと思って、その憧れがぼくを東京に来させたり、モダニズムのグラフィックデザインを目指させたりしたんだと思う。土着的な作品を作りたいなんて全く思っていなかった。僕のグラフィックが、モダニズムだったかどうかはわからないけれど、自分の中に流れる土着性や前近代性を超克するために、無意識に導かれてしていたことではないかと思います。でも結局、土着を吐き出した後は、パンドラの箱を抱えて、絵画へ向かうことになった。

比べて三島さんの生き方は、ずいぶん人工的、と言ったらいいのかな。
平野 
 そうですね。
横尾 
 パンドラの箱の中は、言葉にならない、わからない、世界じゃないですか。ぼくは芸術の究極のテーマは「わからない」ことだと思う。文学も美術もそうだと思うんです。わからないものをわかろうとしてしまうと、破綻していくんです。作品が破綻したり、人格も破綻するかもしれない。わからないものをわからないもののままに評価し認めるということを、いまの世の中はしないでしょう。全部明確にしてしまおうとして、余計なところをほじくりまわす。それは芸術ではないと思うのね。
1 2 4 5 6
この記事の中でご紹介した本
創造&老年/SBクリエイティブ
創造&老年
著 者:横尾 忠則
出版社:SBクリエイティブ
「創造&老年」は以下からご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
平野 啓一郎 氏の関連記事
横尾 忠則 氏の関連記事
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
人生・生活 > 生き方関連記事
生き方の関連記事をもっと見る >