対談=横尾忠則×平野啓一郎 寒山拾得のように デ・キリコのように 『創造&老年』(SBクリエイティブ)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 特集
更新日:2018年3月16日 / 新聞掲載日:2018年3月16日(第3231号)

対談=横尾忠則×平野啓一郎
寒山拾得のように デ・キリコのように
『創造&老年』(SBクリエイティブ)刊行を機に

このエントリーをはてなブックマークに追加
第6回
§許すこと、執着をなくすこと§

横尾 
 四年間ずっと、骨折した左足の親指が痛くてしょうがないんです。歩くのには不自由しないけれど、氷づめされたような妙な痛さなんですよ。ところが今日、日野原重明先生の本を読んでいて、「許す」という言葉が出て来て。自分を許し、人を許すことが、社会を健全にし、自分の肉体を健康にする、そういう力を持っていると。感心したのね。感心というか、体の中にどんどん言葉が響いてきて、四年間の足の痛みが止まってしまった。「許す」というマントラというのか、言霊によって、朝からもう五時間痛みがない。
平野 
 何だか「寒山拾得」の頭痛が消える話みたいですね。
横尾 
 だいたい日野原先生は、知識人ですが、寒山拾得みたいな人ですよね。
平野 
 許すというのは、執着がなくなることに通じますか。
横尾 
 そう言えるかもしれませんね。

ぼくは画家に転向してから七〇代の頃まで、ずっと執着があった。画家に転向したのだから、何らかのかたちで具現化したいと思い続けていたけれど、それは執着ですよね。執着すると同時に、世俗的なものと結びついて煩悩にもなる。

ところが八〇歳の声をきいたら、それがスーッと波のように引いていった。あれあれ……という感じね。だから人間は長生きしないとダメだと感じたんです。禅を広めた鈴木大拙さんは、日野原先生の患者だったんですよ。大拙さんは日野原先生に「長生きしたらいいことがいっぱいありますよ」と言ったそうです。そのいいことというのは、たぶん、煩悩が抜けていくことの自由ではないかなと。
平野 
 それは、自然にそうなっていけるんですか。
横尾 
 そうでない人もいるかもしれないね。ぼくは、めんどうくさがりの性格が助けてくれていると思っているの。
平野 
 僕もありますね。「めんどうくさい」が、僕の生きていく道を、決めてきた気がします。
横尾 
 そうでしょう。めんどうくさいということは、アホになることに近いと思うよ。「めんどうくさい」が社会性を捨てさせる。社会から逸脱しないためには、めんどうくさいことでもやらなければいけない。

働かないでぶらぶらしている人が言うのとは違うからさ。平野さんみたいにいろいろ経験を積んで、小説書いていて、それでめんどうくさいと思うのは、アホに近づけている証拠(笑)。
平野 
 めんどうくさいという言葉は人聞きが悪いですが、きっと体が、それはしない方がいい、と感じ取っているのだと思うんですよね。
横尾 
 それを内なる声とか、体の声と言うのだと思うのよね。少し前に、ぼくは目の手術をしなくてはいけないと言われて入院したんです。でも病院の対応が苦痛で、深夜に自主退院しちゃったの。そして他の病院に行ってみたら、手術しなくていいですよ、ということになった。
平野 
 それはすごい。
横尾 
 めんどうくさいとか、嫌だなという直感は、体の声であると同時に、自分の中の神の声だと思った方がいいかもしれない。

ぼくは難聴で、どんどん人の声が聞こえなくなっているけれど、神の声が聞こえるようにならないかな、と思っていて(笑)。

あとは、気分で仕事を引き受けることはある? 気分というのは理由づけできないわけですよ。
平野 
 だいたい気分ですよね。だから、あとから手帳見て、なんでこんな仕事を引き受けちゃったのかなということもある(笑)。
横尾 
 手帳見たそのときの気分がまた大事だよね。だから気分でドタキャンしちゃえばいい。
平野 
 そこまでいけば、なかなかのものだと思いますが、まだそこまでは(笑)。一度だけ引き受けてから、あまりに腹が立つことがあって、執筆をキャンセルしたことがあるんです。気分よかったですね(笑)。
横尾 
 それはリピートした方がいいんじゃない?(笑) タイなどでお坊さんが托鉢をするのは、施す側に仏に帰依するきっかけを与えるためなんですよ。平野さんは、そのお相手に帰依の機会を与えたかもしれない。
平野 
 どうかな(笑)。最近、托鉢で施すものに、インスタント食品や菓子が増えて、僧侶が糖尿病や痛風になって大変らしいですよ。托鉢で貰ったものは残さず食べないとならないから。
横尾 
 それは問題だね。

ぼくとしては、八〇歳から先は、今までの延長だけれど、少し違うステージかなと感じています。芸術の制度みたいなものから、自由になる、というような。

でも寺山修司みたいに、「職業、寺山修司」とは言いたくないしさ。
平野 
 それは、随分執着がありますよね。
横尾 
 ありますよ。横尾忠則の職業が、寺山修司なら、いいかもしれないけれどね(笑)。他人になる快感ね。

ところで瀬戸内さんはいま、おいくつ?
平野 
 今年、九六歳。お元気ですよね。まだ小説書いているんですから。
横尾 
 先週、寂庵に行ってきたんです。細川護〓元総理作の五輪塔を中心に、庭にお墓をデザインして欲しいと言うので。
平野 
 ご自分のお墓なんですか。
横尾 
 そうなんだけど、他の人のお墓の打ち合わせをしているような感じで、ぼくは何度も、「瀬戸内さん、ぼくの話聞いているんですか?」って言うわけよ。そうすると「聞いているわよ」と言うんだけど、聞いていそうにない。ぼくがあの歳になれば、しかもお墓でしょう。もっと深刻になりそうだけど、全然人ごとみたいで(笑)。ああいう心境はいいな、と思います。        (おわり)
1 2 3 4 5
この記事の中でご紹介した本
創造&老年/SBクリエイティブ
創造&老年
著 者:横尾 忠則
出版社:SBクリエイティブ
「創造&老年」は以下からご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
平野 啓一郎 氏の関連記事
横尾 忠則 氏の関連記事
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
人生・生活 > 生き方関連記事
生き方の関連記事をもっと見る >