【横尾 忠則】消えた骨折痛、「間違い なく風邪です」と太鼓判|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年3月20日

消えた骨折痛、「間違い なく風邪です」と太鼓判

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アトリエにて平野啓一郎さんと(撮影・編集部)

2018.3.5
 4年間毎日痛み続けていた左足親指がスーッと遠くに抜けて消えていく不思議な感覚に襲われた。思わずアレアレと声が出そうになった。朝ベッドの中で日野原重明先生の本を読んでいる時の出来事だった。「救い」について語っておられる個所を読みながら、ウムウムと納得した瞬間にそれは起こった。長い痛みから解放された歓びは例えようもなかったが、痛みが去っていく瞬間のプロセスをこんな風に味わうなんて、僕にとってはちょっと奇跡的な体験である。でも一抹の不安もあった。そのうち再び痛み始めるのではないかという心配もある。

平野啓一郎さんと、本紙の僕の担当編集者の角南範子さん来訪。過日出版した『創造&老年』についての対談を本紙ですることになった。平野さんとはいつも1時間、時には2時間近く☎で話すことが多い。僕の☎はいつも用件だけで終ってしまうが、2人の☎での会話だけは異例だ。年齢は倍近く離れているのに、かっての同級生と話しているような気分になって、次から次へと話題が進展して辺りが暗くなって初めて長☎のことに気づくのである。

夜になっても足の痛みは再発しない。

2018.3.6
 一晩寝ても足の痛みはない。このまま治ってもらいたいと祈る気持だ。

箱根強羅にブックホテル「箱根本箱」が建造中で、6月オープン。このホテルに20数人のキュレイターが自分の好みの本箱を作って宿泊客にサービスをするという企画に一枚加わることになった。

アトリエの周辺の樹木に色んな種類の花が咲き始めた。植物に囲まれながら植物音痴のぼくは梅と椿しか知らない。他にも白い花など開花しているが、花の名は知らない。

2018.3.7
 久し振りに8時間熟睡。かと思うと8時間不眠の夜もある。こんなに眠ると夢がぎっしり詰まっていてもおかしくないのに夢の記憶は0ゼロである。足の痛みが完治するためにも昨夜の熟睡は嬉しい。

補聴器を3個買ったが、どれも合わないので長い間、「聴こえないまま」不自由な生活をしていたが、瀬戸内さんからデンマーク製がいいと言われて、青山の東京ヒアリングケアセンターへ試聴のために出掛ける。試しに一週間レンタルすることになった。

2018.3.8
 世田谷美術館の酒井忠康館長が、D・キリコ展を開催するので、会場で作品の模写をしませんか、と連絡があった。ぼくは会場内を移動しながら模写の対象を物色して廻った。そして、作品の前で、脳内キャンバスに次から次へと模写を始めた。全キリコ作品を模写して、本物展と同じスケールの模写展をやってみたいとも思った。

野球場に来ている。両チーム共に何百点という点数を入れながら延々延長戦を競っている。その内ファンが怒りだして暴動に発展してしまった。なんでも「行身」という名の監督が刺殺されたという報道に一段と騒ぎが拡大してしまった。

今日は一日中、くしゃみと鼻水が流れて全く仕事にならなかった。

2018.3.9
 瀬戸内さんに体調がよくないと話すと、「すぐ入院しなさい」と言われる。ぼくがよほど入院の好きな人間だと思われているみたいだが、「老人になると風邪が怖いのよ」とけしかけられる。その気になったぼくは玉川病院に行くが、診断の結果は花粉症だと。この症状は間違いなく風邪だと思うが、医者は「花粉症」だと決めつける。

2018.3.10
 それにしても間違いなく風邪の症状だ。成城漢方クリニックでは、僕の想像通り、「間違いなく風邪です」と太鼓判を捺されて変に安心する。このままアトリエに行ったり、外食したりすると、かえってブリ返してしまうので、漢方を飲んで家で寝ることにする。おでんは風邪でもないのに僕のベッドで枕を並べて寝る。食欲がないと体力が落ちるので好物のカレーとぜんざいを妻に作ってもらう。先ず身体の喜ぶことをすることで快復を計らなければならない。ただただ寝るだけでは退屈なので、日記の整理をしたり、書評の対象になる本を読んだりして時間つぶしをする。

2018.3.11
 朝食にぜんざい。好物で早く快復させなきゃ。それでも終日、おでんとひとつのベッドに横たわる。おでんのように爆睡すれば風邪も一発で治るはずだ。猫のように無心にはなれない。時々身体を起こして日野原先生の本を読む。先生は生きることに積極的だ。今日のぼくみたいな日は、さっさと入院して治してしまう。仕事場が病院だからうらやましい。整体師の萩原さんに自宅に出張治療に来てもらう。
2018年3月16日 新聞掲載(第3231号)
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