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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
2018年3月17日

連 載 今日のフランス映画/伝統と現代化 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く48

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グザヴィエ・ボーヴォワ(左)、アンドレ・テシネ(中央)と

HK 
 正義感に溢れた人間ながら、同時に犯罪者である、そのような人は、実際いるのかもしれません。しかし日本映画においては、信心深いカトリック教徒のようにして自らに鞭を打つ、そのような行為を通じて、個人を問題として表現することはあまりないのではないでしょうか。パリに限って言うと、普段生活している分には、全くと言っていいほど、カトリックの伝統や『大人は判ってくれない』に出て来るような締め付けは見えません。
JD 
 普段は見えません。見えないところへ埋もれているのです。
HK 
 そうは言っても、クリスマスが来ると急に街から人が消えたり、時々カトリックの文化が非常に強く現われてきます。そして規律のようなものも、おそらくまだどこかで残ってはいる。そうした文化の見えないところを踏まえないと、『次は、心臓を狙う』はよくわからない気がしました。ただ、演出だけ見ていても非常に面白い。間違いなく、今日のフランス映画だと思います。普段は見えない何かが、非常に控えめながらも見事に表現されている。伝統に根ざす何かとの対立は、今日のフランスのどこかに存在しているはずです。
JD 
 伝統と現代化の葛藤は、今日のフランスにおいて、確かに存在しています。世界中の様々な場所で同じことが言えるはずです。日本でも同じではないですか。
HK 
 もしかしたらそうなのかもしれません。しかし、今日の日本映画を考えると、すでに問題はそこにはない気がします。人物の二重性という観点では、アンドレ・テシネの最新作『私たちの狂騒の時代』(2017)でも同様のことが、問題となっていたのではないでしょうか。
JD 
 テシネは、正真正銘の映画作家です。彼の最新作は、非常に面白かった。唖然とさせるような物語でした。テシネが見せた、第一次世界大戦中の脱走兵の姿も、フランスの様々な事件の一つです(脱走兵ポール・グラップの事件。脱走後、身を隠すため女性として生きた)。その点で、アンジェの『次は、心臓を狙う』と似たところがあります。どちらも、実際の事件に基づいた作品です。好意的には語られることがなかった歴史に忠実に描かれています。現実の生活の中で、実際に起きた事件です。三面記事のような内容ですが、非常に驚くべきものです。テシネの映画を通じて、私たちは実際にあった事件に立ち会うことができます。そして最後、その脱走兵を匿っていた妻によって殺されるところまで、実際の事件に忠実に描かれています。現実の世界において、時折目を疑ってしまうような三面記事の事件があるのです。人殺しでもある憲兵の事件などは、そう何度もあるわけではありません。日本では、同じようなかたちで事件が起こったことはないのではないですか。アメリカでも、フランスのようには、事件は起きません。そうした事件が起こるのは、フランスだけです。
HK 
 日本では、別のかたちで事件が存在していると思います。今村昌平や大島渚は、実際の事件を取り上げていましたが、確かに日本的な事件だったのでしょう。そうではなくても、今日の世界を見せることができる作家も、間違いなく存在しています。最近面白いと思ったのは、日本とドイツの今日を代表する作家が、それぞれ〈亡霊もの〉のような映画を撮り続けているということです。明らかに、今日のフランスとは社会のつくりや歴史が異なる。その意味において、黒沢清とクリスティアン・ペツォールトは非常に面白い映画を撮っている。ペツォールトの作品には、ハルーン・ファロッキが脚本に参加しており、ファロッキの長年の世界について分析するような仕事が、作品の中に見られます。その結果、ペツォールトの映画には、独特の開かれた空間と距離感が存在している。人物の間にも距離があり、それに加えて社会や歴史の中に埋もれてしまった亡霊(RAFや東ドイツなど)が現れてくる。黒沢清においても、空間性、距離、亡霊は重要な要素となっています。フランスでは、そのような映画は撮れないはずです。

<次号へつづく>
〔聞き手=久保宏樹/写真提供:シネマテーク・ブルゴーニュ〕
2018年3月16日 新聞掲載(第3231号)
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