教会の聖人たち (上) 書評|池田 敏雄(サンパウロ)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年3月17日

日本では他にない聖人伝 
苦しみを愛に置き換えて乗り越えてきた聖人から勇気やヒントを得る

教会の聖人たち (上)
著 者:池田 敏雄
出版社:サンパウロ
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子どもは身近な親、兄弟を見て模倣することでさまざまなことを習得し、成長していく。そして大人たちの姿の中に、将来なりたい自分の理想像を意識・無意識のうちに探し始める。やがて華やかなものに憧れ、テレビの中のスポーツ選手、タレントたちを見ては胸をときめかせることもある。

やがて歳を重ねていくと、人はしだいに先人の生き方に裏打ちされた内面的なものに惹かれていく。あの人はどんな考え方をしているのか、何を信じていたのかと。いつか人生の困難に直面するとき、それを乗り越えたモデルがあればとても励みになるものだ。神学者ディートリヒ・ボンへッファー(1901~44)によると、絶望的な状況にある人たちに対して、理論的なことは力を持たず、ただ苦しみを生き抜いたモデルが力になるということである。

キリスト教は、もちろん言葉化された神学というものを持つが、単なる教えや理論ではなく、具体的な生き方を示したモデルの宗教といえる。

愛である神が人となった。それがイエス・キリストであると教会は信じている。神は本来、霊的な存在で見えないはずだが、人となってこの世に来られた。それは神から離れて愛を失った人間が、愛を取り戻すように神が教えるためである。具体的に見える形でというのがポイントである。人となった神であるイエスは、実際抽象的にではなく、具体的に神と隣人をどのように愛したらよいかを教え、最終的には愛の極みである十字架上の死をもってそれを示したとされる。これを見た人々は、ここに永遠の命(復活)があると悟った。そしてイエスを人間にとっての最高のモデルであると捉え、イエスに倣うこと、つまりイエスのように考え、話し、行い、愛することを自分たちの生き方の指標とした。「私があなたがたを愛したように互いに愛し合いなさい。これが私の掟である」(ヨハネ福音書15:12)という言葉を受けとめて。
教会、とくにカトリック教会において崇敬される聖人たちは、イエスをモデルとして生き、死んでいった者たちである。彼らは単にありがたがる対象ではなく、イエスに続いた者として、私たちが見倣うべき生き方のモデル、模範として提示されている。聖人たちの存在は、イエスを出発点とし、使徒たちから現代まで連綿と続いてきたモデルの系譜ともいえよう。それぞれの時代や地域の思想、政治体制の中での限界、あるいはその聖人の個人的な能力、性格などの限界はありながらも、イエスに倣って生きた聖人たちがいるということは大きな励みとなる。「聖人伝は第二の福音書である」という聖イグナチオの言葉は、たとえ時代が変わったとしてもその中で聖人がどのようにイエスを理解して生きたかというモデルを通して、イエスを腑に落ちた形で理解できるという意味なのであろう。
『教会の聖人たち』(全面改定版)の下巻が出版されて、上下巻そろって見ることができるようになったことは喜ばしいことである。これまで伝統的に崇敬されてきた聖人に加え、親しみやすい現代の聖人(たとえばヨハネ・パウロ二世)、そして特に来日している修道会の創立者のうち福者・聖人が紹介されている。写真や見出しを用いて現代風に読みやすく工夫されていることもうれしい。これほど多くの聖人たちが一挙に、しかも詳しくその生涯や霊性が紹介されている聖人伝は日本では他にない。

再認識させられるのは、イエスを信じるがゆえに迫害され殺された殉教者をはじめ、すべての聖人がなんらかの苦しみを経ていることである。この二千年の中で、こんなにも多くの聖人たちが苦しい状況のなかで、イエスの生き方や死に方に希望を見出して、苦しみを愛に置き換えて乗り越えてきたのだ。聖人たちを「聖なる先輩」として見つめ、彼らから私たちの生き方に勇気やヒントを得ていくのは有益なことであろう。
この記事の中でご紹介した本
教会の聖人たち   (上)/サンパウロ
教会の聖人たち (上)
著 者:池田 敏雄
出版社:サンパウロ
以下のオンライン書店でご購入できます
教会の聖人たち  (下)/サンパウロ
教会の聖人たち (下)
著 者:池田 敏雄
出版社:サンパウロ
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年3月16日 新聞掲載(第3231号)
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