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American Picture Book Review
更新日:2018年3月27日 / 新聞掲載日:2018年3月23日(第3232号)

すてきなデザート

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本作は“ブラックベリー・フール”と呼ばれる伝統的なデザートを軸にアメリカの歴史、家族とジェンダーの役割、さらに調理器具の変遷をも絶妙に組み合わせた見事な絵本だ。しかし著者がもっとも訴えたかったと言うアメリカの負の歴史、奴隷の表現に問題があると批判され、著者が謝罪したいわく付きの絵本でもある。

物語は300年前のイギリスから始まる。ブラックベリーと生クリームを混ぜ合わせただけのシンプルなデザートも、当時は野生のブラックベリーを摘み、牛の乳を搾って作った生クリームを、小枝を束ねた泡立て器で腕の感覚がなくなるまでかき混ぜねばならなかった。さらに“冷蔵庫”は寒い戸外の丘に穴を堀ったものだった。

幼い娘と母親はこれほどまでの労力をかけて作ったブラックベリー・フールを家長である父親と兄たちに供し、自らは台所で空になったボウルに残ったものをすくい舐めなければならなかった。それでもブラックベリー・フールは格段に美味しいデザートだった。

200年前の米国南部では黒人奴隷の母娘が白人一家のために作っていた。調理器具は多少の進化を遂げてはいたが、それでもまだ大変な作業だった。100年前のボストンでは果物は青空マーケットで売られ、氷を使った冷蔵庫も室内に置かれていた。調理はまだ女性の仕事だったが、夕食のテーブルは家族全員で囲むものとなっていた。

そして現代のカリフォルニア。父と息子がスーパーマーケットで食材を買う。父はインターネットでレシピを検索し、息子は電動の泡立て機でものの2分で生クリームを泡立ててしまう。そこへ夕食会の招待客たちが到着する。ヒスパニック、白人、アジア系と多彩だ。黒人と白人の異人種カップル、そのミックスの子供たちもいる。父と息子が作ったブラックベリー・フールは大好評だ。皆が帰ったあと、男の子は空になったボウルを舐めずにはいられない。なんておいしいデザートだ!

批判されたのは、奴隷の母子が微笑みながらブラックベリーを摘むシーンだ。「奴隷が幸せなはずはない」と。この批判への反対意見も多く出た。「奴隷であっても母と娘のささやかな幸福の一瞬はあったはずだ」。

もちろんあっただろう。だが、絵本を読む子供たちは微笑む奴隷を見て「そんなにひどいことでもなかった」と思ってしまう。奴隷にもあったささやかな喜びを描くには別の文脈が必要なのだ。アメリカの人種問題はこと、複雑なのである。
この記事の中でご紹介した本
300年まえから伝わる とびきりおいしいデザート/あすなろ書房
300年まえから伝わる とびきりおいしいデザート
著 者:エミリー・ジェンキンス
翻訳者:横山 和江
出版社:あすなろ書房
以下のオンライン書店でご購入できます
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