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八重山暮らし
2018年3月27日

八重山暮らし(34)

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沖縄の県花デイゴ。冬に落葉し、三月から五月に花が房になって咲く。
(撮影=大森一也)
デイゴと共に


深紅のデイゴは、出立の悦びを高やかに謳歌している。とりどりの花に埋まる南国にあっても、紺碧の空にきりりと紅をなぞった花弁は、ひときわ目を引く。その艶やかな赤に、いのちの芽生えを重ねる。

時は春。島に桜が舞う風景はみえない。天を指し、伸びやかにデイゴが咲きほこる。島の子の門出に似つかわしい。静かに頷き、仰ぎ見る。
「子は島の宝」

今では、耳朶にこびりついた言葉。しばし、思い起こす。西表に暮らし始めた頃のこと。幾度も聞いた移住者の深々とした感嘆の声を。
「ここではよその子も、自分の子もみな同じ。家に遊びに来たら、みんな入れて、おやつも分けてくれる。叱る時も一緒。分け隔てなく接してくれる。よそ者の自分ら家族にとって、本当にありがたかった…」

我が子も、他人の子も、どの子も同じ。ただひとつのいのちとして、まるごと受け入れる。「子は島の宝」という精神文化に裏打ちされた振る舞いが日常を満たす。みなを同じく慈しむ。それは、やわらかなこころに原体験として蓄積されていく。だから、島の子は南国の陽射しのごとく、明けっ広げに人を視つめる。

家庭から家庭へ。地域を縦横に縫いながら子が育つ。澱みがちな人間関係に子どもらの風が渡る。閉ざされた思考が緩やかに撹拌されていく。社会に睦まじさをもたらす。

デイゴの季節、島のつつましやかな当然を胸のうちで、そっと繰る。
2018年3月23日 新聞掲載(第3232号)
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