宿命の戦記 笹川陽平、ハンセン病制圧の記録 書評|高山 文彦(小学館 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年3月24日 / 新聞掲載日:2018年3月23日(第3232号)

宿命の戦記 笹川陽平、ハンセン病制圧の記録 書評
ハンセン病根絶への道は差別撤廃と貧困解決の闘い

宿命の戦記 笹川陽平、ハンセン病制圧の記録
著 者:高山 文彦
出版社:小学館
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ハンセン病は日本人にとって決して身近な病気ではない。ただその名を知らない人はいないだろう。かつて日本には「らい予防法」という法律があり、ハンセン病患者は隔離され長く差別を受けてきた。この法律に対する違憲国家賠償訴訟が起こされ、原告勝訴の一審判決に対して当時の小泉総理大臣が控訴をせずに判決を受け入れたのは記憶に新しいところだ。

著者の髙山文彦は、『火花 北条民雄の生涯』で、大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞を受賞している。ハンセン病問題や差別問題は一貫した著者の執筆テーマである。本作『宿命の戦記』では、日本財団会長の笹川陽平を描いている。笹川のライフワークがまさにハンセン病の根絶と差別撤廃なのである。

笹川の仕事は、ハンセン病の未制圧国(地域)を回って患者の発生状況を調査し、政治指導者やメディア関係者に面会しハンセン病に対する誤解・偏見を解く、さらに、医療関係者にも理解を求め病の根絶に力を発揮してもらうことだ。もちろん、患者やハンセン病回復者に会って励ましや希望を与えることもする。

笹川は1年の3分の1を海外活動に当てているという。従って著者も笹川と行動を共にし、本書で同行取材した国は20カ国にも及ぶ。笹川が向かう国々で病の制圧がどんどん進むかというと残念ながらそうではない。国によって事情はさまざまだが、ハンセン病を克服しようとするプライオリティーが必ずしも高くないからだ。皮肉なことにハンセン病は死に至る病ではない。話を天然痘ウイルスと比較してみると分かりやすい。

天然痘はアステカ帝国やインカ帝国を滅ぼしたと言われている。その病原性の強さは人類の敵と言っても過言ではない。WHOは天然痘ワクチンを世界中の人にうつことで、1979年に天然痘を根絶させた。ハンセン病の特効薬MDTは、最初は日本財団が、現在は製薬会社ノバルティスが無料配布をおこなっているにもかかわらず、この病気は天然痘のようには消えない。結核やHIV感染症(エイズ)への取り組みが優先されてしまう現実があるのだ。

本書を読み進めると、ハンセン病患者の発生は貧困と密接に関連していることに気付く。ハンセン病の起因菌であるらい菌はもともと非常に感染力が弱い。笹川が多くの患者と握手やハグをしても感染するということはまったくない。ではなぜ患者が発生するかと言えば、それは社会的・経済的貧困が人間の衛生環境や栄養状態を劣悪なものにし、人の免疫力・抵抗力を奪うからだ。

こうしてみると、ハンセン病根絶への道とは差別撤廃と同時に貧困解決の闘いでもあることがわかる。笹川個人の力で世界の貧困問題を解決するのは、それこそ人生が200年くらいないととても追いつかないかも知れない。だからこそライフワークなのであろう。

彼のエネルギーはどこから来るのだろうか? 笹川の父親は、日本船舶振興会会長だった笹川良一である。良一は、右翼の大物とかA級戦犯などのレッテルを貼られた人生だった。陽平から見ればそれは差別となる。父が受けた差別を晴らしたい――それが動機である。しかしそうした世間の悪評とハンセン病に対する差別は同列なものだろうか? 私はそれよりも、陽平が26歳の時に韓国でハンセン病施設を見て心を動かされたという出来事が大きかったように思う。若き陽平青年がヒューマニズムに突き動かされた瞬間だったのだろう。

笹川陽平と髙山文彦の世界の辺境地への旅に、皆さんもぜひ加わってはどうだろうか。
この記事の中でご紹介した本
宿命の戦記  笹川陽平、ハンセン病制圧の記録/小学館
宿命の戦記 笹川陽平、ハンセン病制圧の記録
著 者:高山 文彦
出版社:小学館
以下のオンライン書店でご購入できます
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