西南戦争 民衆の記 大義と破壊 書評|長野 浩典(弦書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年3月24日 / 新聞掲載日:2018年3月23日(第3232号)

西南戦争 民衆の記 大義と破壊 書評
狂気に支配された戦場を再現 
したたかに生き抜き、時には戦争を楽しむ民衆

西南戦争 民衆の記 大義と破壊
著 者:長野 浩典
出版社:弦書房
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西南戦争は、今から一四〇年前の明治一〇年の二月から九月にかけて、西郷隆盛を名目上のリーダーに祭りあげた薩軍と近代化途上の政府軍の間で戦われた最後の内戦である。

西南戦争研究は長い間低調であったが、近年、小河原正道『西南戦争』、猪飼隆明『西南戦争-戦争の大義と動員される民衆』、落合弘樹『西南戦争と西郷隆盛』などの力作が刊行され、研究水準が一気にあがった。本書は、このような研究史の流れに棹さしながら登場した西南戦争の研究書で、「西南戦争を民衆側、惨禍を被った戦場の人びとの側から徹底して描」き、「戦争が地域社会に与えた影響に焦点をあてている」点に、最大の特色がある。

著者は阿蘇に生まれ育ち、熊本大学で日本近代史を学び、大学院終了後は大分県で高校教師を勤めながら地方史編纂に参加し、地域史・民俗学の著作を発表する歴史研究者である。西南戦争の戦場は、鹿児島、熊本、宮崎、大分の四県に及び、六万に及ぶ政府軍が、ほぼ政府軍に匹敵する規模の薩軍および薩軍に協力した熊本・宮崎・大分の党薩諸隊と対峙した。本書は西南戦争の戦場全体ではなく、第一に西南戦争最大の激戦が闘われた田原坂から熊本城下にかけての地域と、第二に阿蘇から大分県南部そして宮崎県北部にかけての地域を、研究の対象として掘り下げている。

特に第二の地域は、五月以降、薩軍の野村忍介が率いる奇兵隊が延岡を根拠地として大分県南部の竹田や臼杵に侵入して、地域の人びとを巻き込みながら激戦を展開した場所である。また、宮崎を追われた薩軍が政府軍に追い詰められ、最終段階の激戦が展開したのも延岡周辺であった。西南戦争を理解する上で、第二の地域の研究は不可欠であるにも拘わらず、未解明の部分が多かった。重要であるにも拘わらず手薄であった大分県南部の戦闘とその戦場に住む人びとの戦争体験を、著者の「土地勘」を生かしながら克明に描いた点で、本書は西南戦争史研究の進展に大きな貢献をしている。

歴史叙述に不可欠の歴史資料の選択にも著者の工夫が見られる。政府軍側の資料としては、第一旅団会計部長川口武定の『従征日記』が使用される。第一旅団は田原坂の激戦の主力であり、その後は第二の地域を転戦し、鹿児島城山の包囲戦にも参加した。和歌山藩出身の川口は津田出や陸奥宗光に連なる人物で、維新後、神奈川県庁と大蔵省に勤務した後に陸軍会計部に転じ、西南戦争では兵站事務を担った。川口は戦場を客観的に記録し、自身の描いた絵を挿絵として日記に納めた。彼の日記をたどることで、狂気に支配された戦場の様子が再現される。凄惨な死闘、捕虜の殺害、悲惨な戦死傷者、人肉食などのエピソードが描かれ、そして戦場に動員される地域の男女や、戦場に住む人びとの有様が、政府軍側の視線からという資料的なバイアスはあるものの、活写される。

その一方で、戦争という歴史的事件と民衆の関わりを描くのは一筋縄ではいかない困難な挑戦である。戦場という極限状態でさえ、民衆はしたたかに生きぬき、時には戦争を楽しみさえした。西南戦争では、軍夫など戦争に動員された人びとの賃金や糧食購入費として多額の戦費が地域に落とされ、様々な商売が繁盛して「戦争バブル」が発生した。戦場に住む人びとにとっては、戦争は恐ろしい一方で、興味ある見世物であった。戦場では大規模な農民一揆が起こり、コレラが蔓延した。このような戦場の悲惨と悲喜劇の実相を描く点では、地域資料に精通した著者の筆力が遺憾なく発揮されている。その一方で、長野氏ではなくては書けない筈の、地域資料を駆使して民衆と戦争の関係を描いた本書の後半部分については、もっと詳細な分析と叙述が必要ではなかったのか、という読後感を持ったことを率直に記しておきたい。

以上のように、本書は近年の研究水準に立脚した、西南戦争の地域史研究として注目すべき成果である。本書で十分叙述しきれなかった部分について、さらに著者が研究を進められることを強く期待したい。
この記事の中でご紹介した本
西南戦争 民衆の記    大義と破壊/弦書房
西南戦争 民衆の記 大義と破壊
著 者:長野 浩典
出版社:弦書房
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