めんどうな心が楽になる 書評|永井 宗直(牧野出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年3月24日 / 新聞掲載日:2018年3月23日(第3232号)

めんどうな心が楽になる 書評
万の箴言よりも一つのエピソードが胸を打つ

めんどうな心が楽になる
著 者:永井 宗直、笠 龍桂、小澤 大吾、川野 泰周、松本 隆行、大竹 稽
出版社:牧野出版
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もともと私は、理念としての「禅」は苦手なほうである。

若い頃は実存主義一辺倒、サルトルやカミュに心酔し、新宿ゴールデン街だとかパリのカルチェラタンに埋没していた(もしや本書の編者もご同類か。ただし私が入り浸っていたのは編者がお生まれの頃、パリ五月革命の真最中)。しだいにそれが変化して、仏教や日本の(古代)神道にまでも興味を覚えるようになったが、「怒るな、泣くな、恨むな」などと言われると、違和の感情を抱かざるを得ない。だいたいにして私の座右銘は「喜怒哀楽すべて人生」。「捨てる」より「拾う」を選ぶ人間なのである。みずから毎朝晩、般若心経を唱え、空海や行基菩薩の話を書いたりもしているのに、説法や説教は好きではない。もっとも本書はそういう固い本ではないし、各僧はそれぞれの役割として「戒め」を語っているのであって、本当はさほど単純なものではないのかもしれない。いずれにしても、万の箴言よりも一つのエピソード、のほうが胸を打つ。

私が瞠目させられたのは、小澤大吾和尚のイギリスでの体験だ。

和尚は若い頃、同国で知的障害者のコミュニティーでボランティアをする。それも「老人ホーム兼ホスピスのようなところ」で、キャロルなる「五十代後半のダウン症の女性をサポートする」ことになった。彼女は様々な合併症を罹患。和尚は食事や身の廻りの世話はもちろん、「下の世話」までもしなければならない。なのにキャロルは感謝の言葉も言えない。

当初、和尚は戸惑うが、心では喜んでいる、と彼女の家族に言われ、それまで以上に熱心になる。「気がつけばキャロルになりきっていた、と言えるかもしれません。そういう時間が過ぎていって、いよいよ私の任期の一年半が終わろうとする三日前のことです。キャロルが亡くなりました」そのタイミングこそは「命の尊さという贈り物」だと小澤和尚は表現する。和尚はキャロルの服の着替えやお化粧直し、職人らと共に墓まで掘った。そうして別れの日、コミュニティーを見下ろす丘の上で、キャロルの挨拶ともいうべき一陣の爽風に吹かれるのである。

この話を読んで、私は素直に感動させられた。私たちが欲しているものは結局、言葉としての「さとり」だの「無我」だのではないのではないか。精神科医と禅寺の住職を兼ねる川野泰周和尚の「二足のわらじ」なればこその悲喜こもごもの諸体験なども、興味深く拝聴(拝読)した。

ところで本書のタイトルだが、私などには『めんどうな心を楽しもう』のほうが良いように思われる。それをしも、また禅。「じつは同じことなんですよ」と言われてしまえば、脱帽するほかない。
この記事の中でご紹介した本
めんどうな心が楽になる/牧野出版
めんどうな心が楽になる
著 者:永井 宗直、笠 龍桂、小澤 大吾、川野 泰周、松本 隆行、大竹 稽
出版社:牧野出版
以下のオンライン書店でご購入できます
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