〈私〉時代のデモクラシー 書評|宇野 重規(岩波書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2018年6月16日 / 新聞掲載日:2018年6月15日(第3243号)

宇野重規 著『〈私〉時代のデモクラシー』
東京大学大学院 高 琪琪

〈私〉時代のデモクラシー
著 者:宇野 重規
出版社:岩波書店
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本書では、19世紀フランスの思想家アレクシ・ド・トクヴィルをはじめ、西洋・日本の研究者の著作に触れながら、「平等化」のグローバリゼーションで揺らいでいる現代日本社会において、いかにしてデモクラシーを活性化できるかについて平易な文書で議論している。

前半では、伝統、宗教や社会階級から解放された個人が、突如顕在化した「不平等」を眼前にして、「平等」だけでなく、他者や社会に自分の存在意義――「私」らしさ――の承認を求めるようになるとした上で、作者は、満たされない承認欲求が現代社会のあらゆる不満の根底にあると指摘している。第三章では、「私」時代における政治への無関心や失望の原因として、極めて個人化された不満や不安に対応できない政治の無力さを挙げ、「私」の問題を「公」へと媒介するデモクラシーの回路の必要性を論じている。

続いて第四章では、単なる多数者支配ではなく、一人ひとりの「断片化した声をくみ上げ、そこに共通の地平を築く」デモクラシーのあるべき姿を描いている。著者の意図は、社会から「大切にされていないのだから、そういう社会を大切にする必要はない」という悪循環を断ち切るために、「自由と平等」の決定過程により多くの人々の当事者としての参加を呼び掛けることにあるように思える。

そもそも「答えのない」問いに対し、意見が分かれるのでここでは議論しないが、私は本書の着地点よりも、そこに至るまでの過程に注目したい。一言で表すと、古今東西の文献を噛み砕いて、議論が分かりやすく組み立てられていることに私は大変魅力を感じた。社会科学に関して全くの門外漢である私でも、何度も「なるほど」と頷いてしまった。特に本書第一章から第二章にかけて述べられた現代人を翻弄する「時間」感覚は、私にとって非常に興味深く、共感できるものであった。

家制度の解体により、「家」の時間の流れから切り離された個人は、次第に自分をより短い時間間隔のなかで捉えるようになる。さらに昨今の日本では、年功序列システムがなかば崩壊しつつあり、人々はもはや遠い将来におけるリターンを期待して現在の労働に耐えることができなくなっている。一方、市場化がもたらす「オーディット文化」――個人も機関も、至るところで説明責任を負わされる―により、社会全体において短期的に成果を求められるようになりつつある。

個人ないし社会全体の意識は「いま・この瞬間」へと集中していくことが明白である。このような社会において、人生の時間軸が細切れになってしまい、人々は「人格」を陶冶する余裕も見出せずにいる。とある調査で、2018年日本全国の新成人500人のうち、「将来の夢がある」と答えたのは54・4%で過去最低であり、日本の政治に「期待できない」と答えたのは約8割との結果が出ていたという。目まぐるしい変化に押され、将来に対する不安を抱えているからこそ、時間の「奴隷」にならずに、「私」自身の生き方においても、「デモクラシー」の活性化に対しても、長期的なビジョンを持つことの大切さを本書に気づかされた。
「私」とは何か、「デモクラシー」とは何か、現代社会に生きる上で感じた漠然としたもやもやを少しでも解消したい方には是非お勧めしたい一冊である。
この記事の中でご紹介した本
〈私〉時代のデモクラシー/岩波書店
〈私〉時代のデモクラシー
著 者:宇野 重規
出版社:岩波書店
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