さらば、政治よ 書評|渡辺 京二(晶文社9)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年9月23日 / 新聞掲載日:2016年9月23日(第3157号)

さらば、政治よ 書評
揺らがぬ平衡感覚 厳しいリアリズムを手放さない

さらば、政治よ
出版社:晶文社9
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さらば、政治よ(渡辺 京二)晶文社9
さらば、政治よ
渡辺 京二
晶文社9
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新聞コラム、インタビュー、書評、講義録といった雑多なもので出来上がった一冊である。しかし著者の「最低言っておかねばならぬこと」はしっかり言明され、一本きちんと筋が通っている。

たとえばこんな挑発的な文章がある。題して「徴兵制は悪か」。集団的自衛権をめぐる国会論議のなかで、野党議員が集団的自衛権は徴兵制につながるのではないかと質問した。これに対し安倍総理は、徴兵制を敷くつもりは毛頭ないと断言した。

総理の答えはごまかしだと著者はいうのだろうか。とんでもない、「徴兵制を先天的な悪とする点において、左翼議員と変わらない」と、むしろ慨嘆するのである。

好むと好むまいと、我々は近代国民国家の一員であり、この国民国家のもとで、自由や人権という価値もまた辛うじて保障されている。

したがって平和の美名のもとに、その主権や人権を守る責任を自衛隊という志願兵に押し付け、平然としていられる「安易な反戦主義」に、著者は我慢がならないのだ。これは転向の表明などではなく、原理的な思考の結果なのである。

かつて著者は『逝きし世の面影』という大著のなかに、世界情勢などとは無縁に、自律した上質の暮らしを営んだ江戸期の人びとの生活を活写した。それが人間ほんらいの生き方だという確信はいまも変わらない。みずからも国の世話にはならず、あまり政治にもかかわらず、静かに晩年を全うしたいと願っている。

にもかかわらず、現代を生きる我々は、もはや鎖国世界の庶民のように、自足した生活を送ることはできない。しかも、経済的に貧しくも心豊かであった「逝きし世」の暮らしと引き換えに、我々は自由や人権という価値を現実のものとした。

おなじ理由から著者は、イスラムジハード主義をグローバリズムに対する正当な対抗勢力だとか、西欧近代を超克する行動だとする、安易な左翼浪漫主義を拒絶する。

むろん著者は近代礼賛者ではない。グローバリズムの動向を苦々しく見つめつつ、しかしけっして懐旧的にはならない。人類史のはるか彼方に近代を脱出する方途を探りながらも、厳しいリアリズムを手放さない。この平衡感覚は、八十五歳のいま、まったく健在である。
この記事の中でご紹介した本
さらば、政治よ/晶文社9
さらば、政治よ
著 者:渡辺 京二
出版社:晶文社9
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