<被爆者>になる」変容する<わたし>のライフストーリー・インタビュー 書評|高山 真(せりか書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年9月23日 / 新聞掲載日:2016年9月23日(第3157号)

<被爆者>になる」変容する<わたし>のライフストーリー・インタビュー 書評
「常識的前提」を見直す意味 ユニークで貴重で優れた研究成果

<被爆者>になる」変容する<わたし>のライフストーリー・インタビュー
出版社:せりか書房
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著者は長崎で原爆被災し生き延びてきた人々から被爆の経験を聞き取ろうとするとき、「被爆者になる」という語りと出会い、深い違和感を覚えることになる。なぜこのような語りを調査しようとする私に伝えようとしているのだろうか。著者は被爆の体験を冷静にそして客観的に聞き取ろうとしていたのかもしれない。とすれば「被爆者になる」という語りは、「聞き取り」あるいは「聞き書き」をしようと考えていた(かもしれない)著者に大きな一撃を与えたのではないだろうか。著者は、調査する<わたし>、あなたの語りと出会おうとする<わたし>を消すことなく、被爆した人々と長年にわたり「語りあう」という相互行為をとおして、自らが抱いた違和感の源や相手が語る被爆体験がもつ「意味」を探り出そうとする。この営みは、通常の「聞き取り」「聞き書き」ではない。著者が依拠するのは、相互行為をとおして「語り」が生み出されるプロセスを詳細に検討するライフストーリー・インタビューという独創的な社会学の方法だ。だからこそ、従来どおりの被爆者からの聞き取り、被爆者論の一つだろうと思い、本書に向き合うと見事にその思いは裏切られることになるだろう。本書には三人の被爆した人々の「語り」が登場するが、著者は彼らと<わたし>との語りあいを詳細に読み解き、彼らが、それぞれの被爆体験を反省しその後の人生のなかで、異なる「被爆者になっていく」ありようを描きだしていく。その読み解きの文体は丁寧かつ執拗なもので、読み続けるのに少しばかりのエネルギーがいるかもしれない。しかし、一級の研究書であり被爆者論であることに間違いはない。私はとても面白く、わくわくして読んでしまった。

本書が明らかにしたいこと。それは今後の被爆問題を考え、被爆の記憶の継承を考えるうえで、とても重要なことだ。誤読を恐れずにいえば、こうなるだろう。被爆した人々の経験は、まさにその人の数だけ多様であり、「被爆者」という政治的運動的なカテゴリーにむりやりおしこめられるようなものではない。またその経験に優劣をつけ「被爆者」を序列化する了解図式も、被爆という問題を考えるうえで、「わかりやすさ」を提供できるとしても、人々が問題を生き、苦しんできた<リアル>を捉え、考え抜くうえで、私たちの思考停止を促してしまうものだろう。被爆七〇年がすぎ、直接経験した世代の高齢化が急速に進む今だからこそ、被爆経験の多様性を私たちは、見つめ直すべきではないだろうかと。

被爆者を「聖化」しその存在を絶対視し、核兵器廃絶や反核平和という「大文字の正義」に安住した研究は、正直つまらないし、少しも心に響いてこない。こうした研究と比べ、本書は異彩を放つ。被爆問題をめぐる「常識的前提」を見直す意味を確実に訴えてくる本書は、ユニークで貴重で優れた研究成果なのである。
この記事の中でご紹介した本
<被爆者>になる」変容する<わたし>のライフストーリー・インタビュー/せりか書房
<被爆者>になる」変容する<わたし>のライフストーリー・インタビュー
著 者:高山 真
出版社:せりか書房
以下のオンライン書店でご購入できます
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