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八重山暮らし
更新日:2018年4月3日 / 新聞掲載日:2018年3月30日(第3233号)

八重山暮らし(35)

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4月~5月の日没後、30分程の間だけ発光するヤエヤマヒメボタル。石垣島と西表島に生息する日本最小のホタル。
(撮影=大森一也)
ヤエヤマヒメボタル


日没の山裾に、ねっとりとした夜気が立ちこめる…。落ち葉を踏みしだく足を止め、うずくまった。身をねじり、汗に濡れた首筋を伸ばす。すると、暗闇のひだから光が漏れ、閃いた。

ホタルが、ゆらゆらと闇を舞う。一頭、二頭、三頭…、草むらから次々に這いだし、せわしげに点滅を繰り返す。じっとりと湿ったシダを越え、クワズイモの大きな葉を巡り、輪を描く。米粒ほどの儚い個体が放つ閃光。その清らかなつよさに言葉が喉から、かき消えていく。幾百ものホタルがみっしりと群をなし、ちからのかぎり、きらめいている。

密林に忽然と銀河がわきでた。

居合わせた者が、息をするのも忘れて見つめている。ひしめく光の渦が、森を鎮めた…。

それは始まりと同じく、ふいに終わる。きっかりと時を計ったかのように発光が弱まり、にわかにしぼむ。まるで夢幻だったのかと傾げるほどに、あまたの光がかき消えていく。あたりは人の目がまるきり利かぬ、濡れた闇に覆われた。

初冬の西表島でオオシママドボタルの瞬きを目にした驚きも、忘れがたい。島の夜は、まぎれもない漆黒の闇が地表に、にじり寄る。皓々とした星明かりのなか、木立の濃い陰が、いっそう際立っていく。すると庭の花木の一隅で、小さな光がささやいた。冷たい夜のことだった。吐息をもらすように、ホタルがひそやかな白い光を放っていた。

(やすもと・ちか=文筆業)
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