カストロ 上 書評|セルジュ・ラフィ(原書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年3月31日 / 新聞掲載日:2018年3月30日(第3233号)

フィデルの人間性を浮き彫りに 
革命家とその家族をめぐるエピソードの数々

カストロ 上
著 者:セルジュ・ラフィ
出版社:原書房
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キューバ革命(1959年1月)を成功に導いた前国家評議会議長のフィデル・カストロ(1926―2016年)はいま、南東部の港湾都市サンティアーゴ・デ・クーバに眠っている。53年、権力を引き継いだ弟ラウル・カストロ国家評議会議長とともに、バチスタ政権打倒を目指して襲撃したモンカダ兵営のあった地だ。ラウルも今年4月には政権ナンバー2のミゲル・ディアスカネル国家評議会第1副議長にその職を譲ることになっている。57歳の革命後世代だ。3年前の米国との54年ぶりとなる国交回復以降、自由化を進めるキューバは新時代に入ったとされるが、社会主義国家建設を掲げたフィデルの業績への評価は、賛否が大きく割れている。本書のカストロ評は総じて厳しい。

著者のフランス人ジャーナリスト、セルジュ・ラフィが、「本書は、フィデル・カストロという迷路をたどる長い旅の結実である」と語るように、フィデルの生涯を父親であるアンヘル・カストロについての記述から始まり、2006年にラウルに権限を委譲するまでの道のりを取り上げた上下二冊の800ページに及ぶ大作だ(「新版へのあとがき」として米玖国交回復までを補筆)。

本書の面白さは、関係者へのインタビューを元にした革命家フィデルと、その家族をめぐるエピソードの数々だろう。

アンヘルは、スペインの貧農出身だったが、キューバで起きた独立運動を鎮圧するために兵士として19世紀末に送り込まれた。これをきっかけに中南米の新天地に移住し、新たな保護国となった米国から進出してきた大企業とうまく関係を築きながら大農場主として成功した。すでに妻のいたアンヘルと、カストロ家に女中として仕えていた利発な少女との間で三番目に生まれたのが、フィデルだった。スペイン語で誠実を意味する名前は、アンヘルの信頼する友人から取ったというのだから、その将来への期待は大きく、弁護士として活躍することを願っていた。
フィデルは、名前とは裏腹に長く権力を握り続けた者に特有の毀誉褒貶の激しい気性だったという。植民地の独立を阻止するためにやってきた男の息子が今度は、米企業や土地を接収し、国有化するのだから歴史の皮肉というものだろう。フィデルは父親を情け容赦ない資本主義者と批判したが、家族の目にはそう映っていなかった。そしてフィデルもまた、妹や娘たちの激しい怒りを買って敵である米国に亡命されてしまう。最初の妻ミルタとの間にもうけた長男フィデルが今年2月に自殺したが、革命前の極貧生活のなかでの気遣いは全くなかったようだ。最後の妻との子どもたちには「コマンダンテ」(最高司令官)と呼ばせたという。著者は「家族への情愛とは無縁の男だった」と切り捨てる。

フィデルの人間性を浮き彫りにする小説的な描写には、たぶんに著者の想像も含まれているだろう。結局、フィデルは著者のインタビューには応じなかったからだ。フィデルに抱擁されると、誰もが味方になるよう強要されたような気になるようだ。「クマのキス」と呼ばれているらしいが、そんな魔力のある人物でもあった。「ビーチョ(腹黒いの意)の異名を持つ男」と繰り返し書いた著者は「冷静に仕事ができた」という。

「権力を握ったドン・キホーテ」「キューバに生まれるべきではなかった」――。

最終章は、フィデルが通ったハバナのイエズス会系の学校時代の恩師である神父の言葉で締めくくられている。

一方、モンカダ兵営襲撃で逮捕されたフィデルは裁判で「歴史は私に無罪を宣告するだろう」と主張したという。

歴史の審判を考えさせる作品だ。(神田順子・鈴木知子訳)





この記事の中でご紹介した本
カストロ 上/原書房
カストロ 上
著 者:セルジュ・ラフィ
出版社:原書房
以下のオンライン書店でご購入できます
カストロ 下/原書房
カストロ 下
著 者:セルジュ・ラフィ
出版社:原書房
以下のオンライン書店でご購入できます
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