連 載 今日のフランス映画 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く50|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!
▶メールマガジン登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
2018年4月3日

連 載 今日のフランス映画 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く50

このエントリーをはてなブックマークに追加
セドリック・アンジェ監督『弁護士』に出演するドゥーシェ(左端)

HK 
 バルベ・シュローデルの最新作『尊師W』が封切られた時には、テレビでものすごく話題になっていました。マリーヌ・ルペンの一件と時期が被ったことも原因だと思うのですが、差別主義を煽る映画なのかと議論されたり、かなりのスキャンダルになっていました。バルベは、意図的にスキャンダルを引き起こしたのですか。
JD 
 彼は、決して差別主義者ではありません。彼の映画は、非常にはっきりした考えに基づいています。西洋人にとっての仏教は、一つの絶対的な神が存在せず、それに伴ういざこざの起きない、他者を尊敬する平和な宗教です。そうであるはずなのに、『尊師W』によれば、ほとんどナチスと代わりのない理論を持った仏教徒たちの姿を見ることができます。驚くようなことではないですか。バルベは、価値判断を押し付けることなく、世界で起きていることを見せています。『尊師W』を見ると、一方的な暴力の被害者となり、ミャンマーから出ていくことを強制されるイスラム教徒たちの姿があります。恐るべきことです。バルべが、そのような世界の姿を見せたことは良いことだと思います。同時に、政治的な面で話をするのならば、バルべの映画は、世界中で無視されているようなことが、多くの人の目に触れるきっかけとなります。作品が発表されれば、大きな話題となる。凄まじいことです。ミャンマーの仏教とは異なるとはいえ、日本も仏教圏に含まれるはずなので、ウィラトゥの一件は日本ではすでによく知られた話なのではないですか。
HK 
 正直言うと、多くのフランス人と同じようにして、僕もこの映画を通じてミャンマーで何が起きているのかを知りました。ミャンマーに仏教の過激派がいることは知っていましたが、詳しくは知りませんでした。日本のニュースでは、さほど重要視されている問題ではありません。
JD 
 そのようにして、閉じこもってしまうのは良くないことです。もっと世界にも目を向ける必要があります。
HK 
 バルベの作品は、ミャンマーで何が起きているのかを知る良い機会でした。
JD 
 バルベは、独特の視点を持った映画作家だからこそ、世界で何が起きているのかを見せることができるのです。バルベは、世界中を母国のようにして股に掛ける稀有な作家です。フランスの映画作家でありながら、スイス、コロンビア、ドイツの出身です。アメリカに渡り、ジェーン・フォンダやミッキー・ローク、チャールズ・ブコウスキーのようなアメリカを代表する顔ぶれと映画を撮れた、唯一のフランスの映画作家でもあります。その後コロンビアで短編を作り、日本に渡り『陰獣』を撮っています。とても好きな作品です。日本の次に、ミャンマーに渡りました。次の作品をどこで撮るのか知りませんが、また世界の何処かへと旅立つことでしょう。バルベは、世界中どこでも映画を撮れる作家なのです。バルベは、自由なのです。周りに縛られることなく生きることができるのです。
HK 
 結局のところ、バルベはスキャンダルを起こすことを考えているのですか。
JD 
 バルベは、自分が何をしているのかよくわかっています。彼の映画は、根本的なところで、程度の差はあれ、いつもスキャンダラスな題材を扱っています。
HK 
 アミン・ダダやジャック・ヴェルジェス(弁護士。元ナチス党員やテロリストを弁護した)を描いたからですか。
JD 
 政治的問題だけではありません。劇映画の中においてさえ、タブーとなっているような題材を、遠回しながら組み入れています。
HK 
 プレミンジャーも、劇映画を通じて多くのスキャンダルを引き起こして来ましたね。
JD 
 プレミンジャーも、多くのスキャンダルを引き起こしました。しかし、プレミンジャーのスキャンダルとは、準備された上でのスキャンダルです。一方で、バルベは自然と、スキャンダルを引き起こしてしまうのです。普段、誰もが気にかけないようなところから、スキャンダルが生まれて来ます。
HK 
 バルベの、生来もつ性格から来るのではないですか(笑)。
JD 
 そのような感じです(笑)。『女主人』の中では、マゾヒズムのテーマを取り扱っています。マゾヒズムを実践する女性が問題となっています。

<次号へつづく>
〔聞き手=久保宏樹/写真提供:シネマテーク・ブルゴーニュ〕
2018年3月30日 新聞掲載(第3233号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
ジャン・ドゥーシェ 氏の関連記事
久保 宏樹 氏の関連記事
ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」のその他の記事
ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」をもっと見る >
芸術・娯楽 > 映画関連記事
映画の関連記事をもっと見る >