胡適 1891-1962 中国革命の中のリベラリズム 書評|ジェローム・B・グリーダー(藤原書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年3月31日 / 新聞掲載日:2018年3月30日(第3233号)

胡適 1891-1962 中国革命の中のリベラリズム 書評
中国の現代思想を議論するために 
本道中の本道をモチーフに描く

胡適 1891-1962 中国革命の中のリベラリズム
著 者:ジェローム・B・グリーダー
出版社:藤原書店
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本書は中国の現代思想を議論する上では本道中の本道たる胡適をモチーフにしている。その網羅性、総合性において良書であるが、一九七〇年に英語版が既に出ていることもあり特に新しい発見が期待されるわけではない。全体への評価としては、本書の持つ問題意識の磁場そのものが「自由民主主義」の中国での展開を観察するという、ある意味分かりやすい「期待の地平」においては確かに一つの基準を示すものである。著者のテーマは、イデオロギー対立の犠牲者とも見える胡適の思想をその「対立」の「平板さ」から救済することであるわけだが、この姿勢は実に毛沢東や蒋介石を対象にした場合にも通じる。そのような意味で、本書の核心的な問題意識を最もよく表しているのは以下である。すなわち、現代中国における思想家(政治家も含む)が共通して夢に描いたのが、「個人の道徳的品性を最高の社会的善についての新しいビジョンと一致させるように作り出す」ことであった、という指摘である。これは、中国現代思想を扱う上で、私的領域と公的領域の分離を前提とする欧米思想とのコントラストを想定せざるを得ない、大きな論点でもある。

ところで、現在の中国において胡適研究はもちろん活発であるが、中国における「自由主義」が無力であるとしばしば指摘されるように、研究の社会的影響がさほどではないことには、やはり三〇年代の「自由主義」の退潮の反復(アイロニー)が感じとれる。その前提として、かつても今も、中国における「自由主義」は、社会的基盤を欠いているという見方がある。その一方の現実として、現在の中国の体制はほとんど、鄧小平の設計から実質的にはあまり変動していない、という指摘がある。興味深いことに九〇年代、鄧小平の肩書は「最高実力者」であった。歴史的に中国の場合、問題は「最高の社会的善についての新しいビジョン」が「実力」を伴っているかどうかが鍵とならざるを得ない。そこで、胡適を語る場合に問題になるのが、米国で学んだことに起因もするだろうが、「ナショナリズム嫌悪」の要素であり、本書もその傾向について指摘している。ナショナリズムは欧米において発明され定義されたものでありながら、一方、非欧米諸国・諸社会におけるそれは、実に「あれかこれか」の選択の問題ではなく、そのような「実力」の問題と深く関連する。中国における「自由主義」の検討は、言うまでもなく改革開放以降の文脈から生じるが、六・四事件(冷戦体制の屈折)と南巡講話(新自由主義の導入)を経て、つまり九〇年代以降、一つの正念場を迎えている。その背景を説明すると、八〇年代は五・四期と同様にして党派性を問わない「啓蒙」の時代であったが、九〇年代に入ると、(共産党の内部矛盾の反映でもあるが)「自由主義派」と「新左派」との間の対立が生じることになる。しかしてこの現象は、興味深いことに五・四期の後の一九三〇年代の国共二大政党の対立の反復(アイロニー)としても見えて来る。

話を元に戻すと、先の「最高実力者」は、南巡講話から中国に新自由主義を導入しつつも、ソ連・東欧ドミノを食い止め、共産党を維持してしまった。そういうわけで、自由主義派は共産党を「一党独裁」として批判する一方、新左派は共産党がネオリベ党に変節したものとして批判する。そしてまた、この両者の対立を縫って、「国学熱(伝統思想の復興)」が醸成される。

本書のメリットの一つとして、胡適による「国故整理運動(伝統思想の掘り返し)」の重要性が指摘されているが、ここにも歴史の反復(アイロニー)が感じ取れる。このような構図において際立つのは、好き嫌いは別にして、やはり鄧小平に象徴的な「実力」のことである。すなわち、この「実力」を一つのカテゴリーとして議論しない限り、中国の近代性にかかわる議論は意味を為さないということである。最後に、本書は網羅的に胡適を語っているので、著者の核心的な問題意識に先に触れたいなら、むしろ第十章「中国のルネッサンス」から読むことをお勧めしたい。(佐藤公彦訳)
この記事の中でご紹介した本
胡適 1891-1962 中国革命の中のリベラリズム/藤原書店
胡適 1891-1962 中国革命の中のリベラリズム
著 者:ジェローム・B・グリーダー
出版社:藤原書店
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