原発被曝労働者の労働・生活実態分析 原発林立地域・若狭における聴き取り調査から 書評|髙木 和美(明石書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年3月31日 / 新聞掲載日:2018年3月30日(第3233号)

学問の原点から被曝労働と原発日雇の実態を記録する

原発被曝労働者の労働・生活実態分析 原発林立地域・若狭における聴き取り調査から
著 者:髙木 和美
出版社:明石書店
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東京電力福島第一原子力発電所の、全電源喪失による爆発、炉心溶融事故から七年が経つ。事実を隠すものはその事実を作り出した犯人だとの格言どおり、事実の隠蔽と自己規制は記憶の風化を加速させ、原発の再稼働は見えない放射線による健康破壊という日常へ生活を埋没させていった。

その時、本書が出た。公刊意図を著者は「現在でも、50年後でも、一史料として、どなたにでも手に取って頂けるようにしておく」ためと淡々と記す(はしがき)。考察の息は長い。二部構成の第一部は、三〇年前の一九八六~八七年の若狭地域での原発日雇労働者の労働・生活の実態調査をまとめた八八年の論文。第二部は、二〇一二年以降の調査を盛り込んで八〇年代の調査を再分析し、二〇一五年に梅田事件原発労災裁判で提出した原告側意見書である。

著者は原発が林立する福井県美浜町で生まれ育ち、大学で社会福祉を学んだ後、美浜町社会福祉協議会に就職し住民が抱える生活問題に取り組む。原発被曝労働で「癌で倒れ、死亡した人や、疾病にかかった後、生活保護受給世帯になったケース」に直面、「結果として表われた生活困難に、わずかに対応」するに過ぎぬ社会福祉や医療に限界と疑問を感じ、その根本を究めんとして大学院に進む。受験前から決めていた研究テーマを「美浜町を含む若狭地域住民の中では珍しくない原発で働く日雇労働者の生活問題を、労働問題と不可分…と考え、原発日雇労働者を、若狭地域の不安定雇用労働者の典型として捉え、その生活問題を集中して抱えている人々のところから…生活問題の構造を明らかにすること」と記す。研究の動機には、原発日雇労働者が被る苦難への想いがあった。

この動機と志が、膨大な聴き取り調査と分析のすべてに貫かれる。若狭地域の産業構造の変化から原発労働者の階層性までを地道に明らかにしていく、まれ・・な研究である。五感で感じられずとも労働者は確実に被曝していく。わずかな収入すら生命と交換せずには得られない。労働者は不足時に県外から採るが通常運転時はほぼ地元で賄われること、被曝労働の大部分は正規労働者以外の日雇、とくに定期点検時に集められる短期契約の日雇に担わされること――こうした実態が具体的な数字と共に明らかにされる。原発は、運転時も停止点検時も被曝労働の犠牲の上に存在しているのである。

著者は、原発日雇の特殊性・・・を強調して代弁や代理告発に陥ることなく、事実を記し続ける。そこから見えてくるのは、いまの日本の労働者一般に共通する普遍性・・・である。福祉が、生活保障という面と同時に、貧困者の分断管理と問題の「自己責任」化の面をもつとの指摘は重要である。原発労働者の早老という健康低下速度に着目した生活記録という視点には蒙をひらかれる。労災保険による解決が抑えられ、ために労基署による調査も行われず再発防止も図られない。資本と国家の責任逃れ、被曝労働者の放置、絶望的な救済のなされなさは、いまの日本の労働者の使い捨てを象徴してあまりある。日本社会自体が被曝労働の犠牲のうえに成り立っていることが浮き彫りになる。

「どのような被曝労働も、夜間労働も黙ってすべて請け負い、絶対逆らわず黙しているので、使い勝手がよいから発注がなされてきた」という、国籍差別下、末端下請として働く極貧会社の事例は、けっして特殊・・でなく誰の身に起きてもおかしくない。読者は、自分が他人であり、他人が自分であるという普遍・・を見いだし、自らが染まった奴隷精神、事なかれ主義を見つめずにはおれない。

幾万回と繰り返される個別・・の事実を一般・・に通じるものとして積み重ねる著者の筆によって、学問とは、人びとが遭わされた苦難に寄り添うことが原点だと思い知らされる。元原発労働者梅田隆亮さんが被曝労働への労災不支給を再審査せずとの処分取消を求めた裁判で、弁護団に出会った著者が原告側の意見書を書くに至った経緯自体に学問は存在する。

三〇年余にわたって事実を記録し続けた歴史的な調査報告は、学問研究は何のため誰のためのものかを問う。著者、版元に、心から敬意の拍手をおくりたい。
この記事の中でご紹介した本
原発被曝労働者の労働・生活実態分析      原発林立地域・若狭における聴き取り調査から/明石書店
原発被曝労働者の労働・生活実態分析 原発林立地域・若狭における聴き取り調査から
著 者:髙木 和美
出版社:明石書店
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