角幡唯介インタビュー 一生に一度の旅 極夜のカオスは自分の内面でもあった 『極夜行』(文藝春秋)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年4月6日 / 新聞掲載日:2018年4月6日(第3234号)

角幡唯介インタビュー
一生に一度の旅 極夜のカオスは自分の内面でもあった
『極夜行』(文藝春秋)刊行を機に

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第4回
五万年前のカスピ海沿岸地域に生まれたかった

極夜行(角幡 唯介)文藝春秋
極夜行
角幡 唯介
文藝春秋
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――以前、「ツアンポー」と「雪男」探検の折にインタビューさせていただきました。その折すでに、どこかに到達する探検ではなく、「精神的未知」のいかに深い所へ入り込むかを考えておられるようでした。 角幡さんにとっての未知とはなんですか。もしくは既知とはなんですか。
角幡 
 難しい質問ですね。いわゆる探検的な地理的未知は、今はあまり関心がありません。ゼロじゃないし、地理的に未知な場所に行く計画もあるんですが、理想的な未知ではない。そこにあるけれど誰も気づいていない未知が理想です。『狼の群れと暮らした男』という本がありますが、あれが究極の現代の探検だと思います。 

――犬のウヤミリックとの関係は、平時にはパートナー、非常時には食糧という、とてもシンプルで究極のものでした。犬がうまそうに人糞を食うというシーンも、探検の場で見ると、とても効率的で美しい。でもこの深い依存関係を文明社会では、「野蛮」とみなすかもしれません。角幡さんは人間が築いてきた思想や文明を知った上で、それを手放して原初に戻る、あるいは文明を超えるという場面に直面していたように思います。他にも極夜探検では、様々な現代の価値観が崩れたり、真逆だったり。 価値観の転倒に出合うというのは、それまで生きてきた世界が崩れるということでもあると思いますが、角幡さんは何を望み、何がかなえられましたか。
角幡 
 本物の太陽を見てみたいという思いはかなえられました。想像した以上にすごい太陽が見られましたから。

これは極夜探検だけの話ではないですが、登山や冒険をつづけていると露骨に生と死の掟、つまり文明の側からみると野蛮なモラルに従うことになり、それに慣れていくと、文明のほうのモラルが欺瞞ばかりで嘘くさく思えてくるんですね。つまり死を日常的に近くに感じているので、モラルが文明のそれとずれていく。文明世界の大事なことがどうでもよかったり、些細なことが重要だったりして、それで妻とよく口論になります。

――好物を待ちきれないウヤミリックが、用を足す角幡さんに近づいて……闇夜の肛門付近の攻防、あの一線を越えていたら、何が待っていたでしょう?
角幡 
 毎朝、肛門、舐めさせていたんじゃないでしょうか。

――角幡さんの本は、先人の物語を、入子式に取り込みながら書かれます。今回は特に、毛綿鴨と呼ばれた男の話が読んでいて面白かったのですが、探検隊の記録を含め、先に生きた誰かの人生は、極地探検において、力をくれますか。
角幡 
 力にはなりませんが、昔の人が見ていた世界はよく想像しました。僕は基本的に昔の人をリスペクトしています。現代人よりも確実に自分の力で生きている要素が強かったので。

――一冊だけ持って行った文庫とは?
角幡 
 ル・クレジオの『物質的恍惚』です。

――ひたすらに橇を引いて進む。一台の橇を二〇〇メートル引いては、もう一台の橇へ戻り、また橇を引き続ける。あるいは海豹猟で数時間、海豹の呼吸口か定かではない穴のそばで待っている。現代日本とは、時間の流れ方がまったく違うと感じます。一見、創造性がない単純作業のようで、実際は精神をとがらせて、ぎりぎりのところで生死の見極めをしている。むしろ現代の私たちは、会社で一見複雑な単純作業をしているのだと感じました。

角幡さんにとって本当の生活とはどういったものですか。
角幡 
 自分の行為がそのまま生きることにつながっている状態です。その意味では狩猟民の生活は理想です。クロマニョン人の人生って無茶苦茶面白かっただろうなぁって本当に思います。それこそ五十年前のエスキモーの生活だって本当に面白かったと思います。できれば五万年前のカスピ海沿岸地域あたりに生まれたかった。隣の洞穴にはネアンデルタール人なんかがいて。ぼくの冒険旅行には彼らの生活の一端を追体験する意味もかなり強くあります。
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この記事の中でご紹介した本
極夜行/文藝春秋
極夜行
著 者:角幡 唯介
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
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