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八重山暮らし
更新日:2018年4月10日 / 新聞掲載日:2018年4月6日(第3234号)

八重山暮らし(36)

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島木の「杼(ひ)」。中心の窪みに苧麻糸を入れる。石垣島の戸眞伊擴作。
(撮影=大森一也
島木の染織用具


染織をするなら、島木の用具があればいい。使い勝手を熟慮した質実な造形。ねぶるように磨き込まれた木肌の艶。小体な佇まいだが軽々しくはなく、確かな重みがあるのもいい。手に持つだけで匂い立つような品格がある。織り手にとっては生涯を共にする、なくてはならぬ連れ合いだ。

琉球松、福木、黒木…。南国の島木は鉄のように堅牢で、使い込むほどに木目が滑らかになる。時には蜘蛛の糸の如く繊細な素材を扱う手仕事に、これほど相応しい用材はない。

沖縄の染織は、その優れた手技が伝統工芸、文化財として高く評価されてきた。がしかし、島木の用具が世間の耳目を集めることはない。長の人生を黒子に徹する。家庭の一角に置かれた織機から離れることなく、おんなの手と気息を合わせ、ひたむきに働く。

それは、真夏の織機に坐すおんなのしとどに流れる汗を吸いこんできた。平たい布団でむずがる赤子の声が沁みついている。家族の寝静まった夜に、小さく揺れる機音を知っている。織り上がりに満足した深い吐息を忘れない。

寝る間を惜しみ布作りに没頭する。故に「夜のあるのがにくたらしい」と洩らすおんなたち。島木の用具は、その想いとひとつとなり生きる。手仕事への汲み尽くせない情熱が、いぶし銀のごとく滲み出ている。
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