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手塚治虫―深夜の独り言
更新日:2018年4月10日 / 新聞掲載日:2018年4月6日(第3234号)

手塚治虫―深夜の独り言(6)「どろろ」が最後の少年まんが

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「大人もののまんがを描いた後、子供もののまんがを描くとどうしても大人っぽいキャラクターになってしまう。どうにかならないか!」
とある時、先生は嘆いた。

詳しく話すとこういう事だ。私が担当していた当時、先生は週刊誌の連載を三本持っていた。一本は『週刊漫画サンデー』の「人間ども集まれ」。もう一本は『週刊少年サンデー』の「どろろ」。最後の一本は『週刊少年キング』の「鬼丸大将」である。執筆の順番は前記の通り。「人間ども集まれ」はいわゆるコミックで大人もの。後の二本は子供を対象としたまんが。コミックのキャラクターは身長は高く顔は小さく八頭身。対して「どろろ」のキャラクターは顔は大きく目鼻立ちはクッキリした三頭身。「人間ども集まれ」のバックは大人の好みに応じて読者のイメージをふくらませるようなあっさりとしたタッチ。対する「どろろ」のバックは子供の想像力を助けるためにコッテリとしたタッチ。このタッチの違いを短時間の間に切り換えるのは、天才といえども容易ではなかったようだ。

どうしたら良いか? 私は当時の先生のマネージャーだったS氏に相談した。もう時効だから結果を話そう。S氏は何も解決する事は出来なかった。三人の担当編集者も名案が浮かばない。結局、先生は虫プロをやめた大人ものが得意のアシスタントを呼び寄せ「人間ども集まれ」のバックを担当させるようにした。人物の特徴やバックの建物などを細かく指定してアシスタントに描かせ、主なキャラクターだけを先生が描く事にした。その結果、おとなもののコミックタッチから子供もののまんがタッチに切り換えるためのトレーニングの時間が出来て、無事「どろろ」の執筆に入れたのである。

「どろろ」を最後に先生の舞台は『ビッグ・コミック』誌などの大人物に移り、『MW(ムウ)』を連載し、『ブラックジャック』で今日の医学物の先達になり、週刊文春で『アドルフに告ぐ』を掲載し、二度と少年まんがに戻らなかった。後年「子供物は、藤子クンにはかなわない」というエピソードが聞こえて来た。
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