対談=樋田 毅×永田浩三 記者人生を掛けた赤報隊取材 樋田毅著『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』(岩波書店)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年4月13日 / 新聞掲載日:2018年4月13日(第3235号)

対談=樋田 毅×永田浩三
記者人生を掛けた赤報隊取材
樋田毅著『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』(岩波書店)刊行を機に

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第3回
レーゾンデートルは天誅、テロ

樋田 毅氏
樋田 
 もちろん上手くいかなかった場合もあります。でも取材相手に一方的に阿ることはしませんでした。新聞記者の看板を背負っている以上は、私は思っていることはきちんと伝えました。例えば赤報隊事件はテロであって、テロは絶対に認められない、そこは引き下がれない一線です、と相手にもわかってもらった上で取材をしたかった。実際に話して、一緒に食事をしたりお酒を飲んだりする中で信頼関係ができれば取材できます。でもまるで話ができないケースもありましたね。情報を得るには信頼関係を作らなければ情報を得られないし、新たな知人の紹介も得られません。これはある意味では新聞記者の基本です。
永田 
 私はNHKでドキュメンタリーの仕事が長かったものですから、NHKの住所や電話だけの名刺では仕事にならず、いつも自宅の住所と電話番号を名刺に刷っていました。それによって怖い目にも合いましたし家族を怖い目に合わせたこともありました。しかし、深夜の自宅に企業のなかの内部告発の電話をもらったり、産業廃棄物の不法投棄を当事者から内情を教わったりもしました。自分の個人の部分を晒しながら仕事をすると信頼される部分もありました。

犯行文の中に、朝日をなぜ憎むのかがありますが、今回の本の中で樋田さんは、朝日の編集方針、特に戦争についてのスタンスで、被害だけでなく加害も含めた総括をされました。戦争の責任を問わなくてはいけないことについて、「朝日は優しくない」といった右翼側の妙な言い方があります。この「優しい」という言葉にわたしはいつも違和感を持ってきました。

戦争で日本軍兵士も多く亡くなり、被害にも遭った。それなのに朝日新聞はいつも加害責任を問うことにだけ熱心だ、だから朝日は優しくないのだと。しかし、そのように戦争を語ること自体が右翼の持っている、どこかひ弱なナショナリズムにわたしには思えます。
樋田 
 右翼のかなりの人たちに共通しているのは、そのレーゾンデートルが天誅、テロだということです。テロを否定すると右翼ではない。だから鈴木邦男さんが右翼のテロを否定すると言った途端に他の右翼団体からは「もはや右翼とは言えない」と批判される。それくらいテロは右翼にとって大事です。

そのテロについて、「右翼のテロは「天誅」であり、相手の気持ちも推し量った上で天下国家のため、やむなく命を奪う、涙のあるテロ。左翼の無慈悲なテロとはまったく異なる」という言い方をします。それに対して「どんな理由であれ、どんな状況であれ、テロは絶対に認められない」と私ははっきり言います。戦争についても「日本軍兵士たちが四〇〇万人も犠牲になった事実は悲しいことです。でも同時にアジアで一〇〇〇万人が犠牲になったことにも思いをいたします。そのどちらが欠けてもいけない」と話しました。
永田 
 赤報隊事件の犯人追跡の取材の中で、朝日新聞の戦争責任についても取材が及びます。結果的に『新聞と戦争』という本に結実します。取材の過程で樋田さんたちの認識が変わったところがありましたか。
樋田 
 発端は〈「みる・きく・はなす」はいま〉という言論をめぐる連載記事です。赤報隊取材チームは普段は原稿を書かないのですが、これは取材して原稿も書きました。一年或いは半年に一回の原稿を書く貴重な機会で我々も全力で取材しました。

そして〈「みる・きく・はなす」はいま〉の第七部で「太平洋戦争への道 朝日新聞」と題したと朝日新聞が満州事変勃発を機に軍部に迎合する紙面に変質した過程を追いました。阪神支局で記者が殺され、言論の自由について取材をしているけれど、「言論の自由」は新聞社だけで守れるのかと言えばそうではない。新聞社が市民社会全体から信頼されてこそ「言論の自由」は守れるのであって、市民社会を代表して新聞社が守ってやっているといった上から目線で考えるべきことではない。或いは報道機関が夜郎自大になっているのではないか、と反省もしなければいけないと考えた時に歴史的な視点も必要になる。その中で、戦争に巻き込まれていった朝日新聞はどうだったのか、との問題提起を鈴木規雄(元朝日新聞大阪本社編集局長)さんからされました。それで「太平洋戦争への道 朝日新聞」という記事に繋った。

でも社内的には自虐的過ぎると評判が悪く、「戦時中の朝日新聞記者だって苦労している。そういうことも知らないで戦後の綺麗事だけで戦前・戦中の朝日新聞を断罪するのか」と言われました。でも社外からは評価が高かったですね。
永田 
 日本の言論に対してかつてどういう攻撃があったのかもきちんと洗い出されました。これもすごく大事な仕事だと思います。小尻さんたちが命を落とした事件は特異なことですが、同様の暴力がこれまでも繰り返されてきました。でも朝日新聞が「戦争と新聞」について記事にしたことで、ずっと後になりますけど、NHKでも「ラジオと戦争」という特集番組を大森淳郎ディレクターたちの手でやれたのだと思います。戦争というファナティックな時代の中で新聞が警鐘を鳴らすことがどれくらい大変なことか、そして旗振り役をしてしまう危険性もあることまで書かれている非常に骨太な連載でしたね。
樋田 
 そう言っていただけるとありがたいです。
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この記事の中でご紹介した本
記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実/岩波書店
記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実
著 者:樋田 毅
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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