対談=樋田 毅×永田浩三 記者人生を掛けた赤報隊取材 樋田毅著『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』(岩波書店)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年4月13日 / 新聞掲載日:2018年4月13日(第3235号)

対談=樋田 毅×永田浩三
記者人生を掛けた赤報隊取材
樋田毅著『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』(岩波書店)刊行を機に

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第5回
取材はギブ&テイクしかし一線は守る

永田 
 NHKも番組の内容をめぐって放送前に政治家とやり取りをしたことがありました。その幹部は政治家と会ったその足でNHKに戻ってきて、私が編集長を務めていた番組を劇的に変えるような指示を出したことが一七年前にありました。
樋田 
 「ETV2001」番組改変問題ですね。
永田 
 わたしはその出来事を検証する本を出した時、できる限り実名で書くことの覚悟をしました。なぜ実名にしたかと言うと、書かれた本人たちがきちんと反論できる余地を作ろうと考えたからです。永田はああ言っているが、事実はそうではないのだと言ってもらうことで真相により近づけると思いました。放送総局長とか部長とか、お世話になった先輩たちをすべて実名でさらしました。しかし正直に言えば、なんだかとても悪いことをしている気分に襲われ、具合が悪くなりました。樋田さんはイニシャルや役職名で書かれています。これは武士の情けですか。
樋田 
 難しいですね(笑)。最初はすべて実名で書きました。でも三〇年経っているので亡くなっている方も多いのです。
永田 
 本人の反論ができないですね。
樋田 
 もう少し経ったら実名で書くことがあるかもしれません。
永田 
 取材の中での警察との関係をすごく丁寧に、またご自身の分析を含めて書いています。こういうのを読んだのは初めてでした。赤報隊事件では樋田さんたちの方が明らかに警察より先行している部分がありました。
樋田 
 私としては捜査と取材の関係を正確に、マスコミの歴史を書くつもりで包み隠さず書き残そうとしました。警察は朝日から情報を得たいわけです。しかも、もしかしたら警察と仲の良くない朝日新聞の内情を知っておきたい気持ちがあったかもしれません。こちらは被害者で取材者ですから情報提供については兵庫県警との間では一線を守りました。だけれど東京の警視庁からみると、一体何をやっているのか知りたかったのでしょう。
永田 
 朝日の別の部局の方が膨大な取材ノートのコピーを警視庁に渡してしまったのですね。
樋田 
 そうです。私としては不満でした。私たちの知らないところで、警視庁に情報提供をしていたのです。だけれど東京の記者も喜んで行なったとは思えません。警察からの強い圧力があって抗しきれず提供したのでしょう。

取材はギブ&テイクで、情報を提供して貴重な情報をもらう。しかし出してはならない一線は守る。その微妙なところで成り立っています。この情報提供については我々が守るべき一線を踏み越えているのではないか、と納得がいきませんでしたね。

記者も警察も自分の足を使って得た情報は大事にします。労せず得た情報は他の新聞社や雑誌社に簡単に流れてしまいます。情報のギブ&テイクの材料に使われたのだと思います。それくらい情報は独り歩きしますし、特に警察という組織との付き合い方は難しい。大事な場面で一線を踏み越えてしまったことで影響がたくさんありました。私も懇意にしている刑事から、我々が行っても出てこない情報がなぜ出てしまったんだ、と言われ返す言葉が見つかりませんでした。
永田 
 取材する側と取材される側、記者と警察との関係の難しさですね。
樋田 
 大事な所で守るべき一線を踏み越えたことは書き残すべきだと思いました。赤報隊事件については警察に限らずすべてにおいて一生懸命取材しました。単に取材するだけでなく、その後の関係も続くような誠意を持った取材として続けないと一時的なもので終わってしまいます。そこは大事なところだし難しいところですね。
永田 
 阪神支局襲撃は極端な形でありましたが、その後も朝日新聞への攻撃は繰り返しあります。私はある時を境に朝日新聞の応援団に結果的になってしまうのですが、私も「殺す」と電話を受けたことが何度もあります。それらを経験してみると、朝日新聞社への攻撃がいかに酷いものであるかを我が身のこととして重ねて考えてしまいます。謂れなき攻撃について朝日側はなかなか反論できない。樋田さんが書かれた本が、結果的には朝日の記者たちがいかに真摯に取材をしているかを世に伝える良い機会になったのではないかと思いました。
樋田 
 そうであれば書いた甲斐がありました。一般的には、朝日新聞社の記者は上から目線で給料もたくさんもらっていて、批判的な記事は書くけれど他の新聞社の記者よりも足で取材をしていないと言われます。
永田 
 そういう方もいますね(笑)。
樋田 
 そうですね(笑)。ネット右翼や保守的な陣営と対峙しているマスコミの代表が朝日新聞であるような批判。ここ数年は特に酷いと思いますけれど、ある意味では戦後ずっと続いてきました。右翼陣営から見た朝日新聞は決して良いイメージではない。朝日攻撃の中で、私たちは一生懸命やってきたし、こんな現状になっていると伝えたかった思いはあります。
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この記事の中でご紹介した本
記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実/岩波書店
記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実
著 者:樋田 毅
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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